第1550話 君に優しく

「ベー。ちょうどよかったわ。あの壁の向こうにいける穴を発見したわ」


 ちょっと一服しようかな? と思ってコーヒーの用意しようとしたらアリテラがやってきた。


「入ったのか?」


「いえ、まだよ。ゴブリンが辛うじて入れる穴だったから」


「わかった。いってみるよ」


 なにか緊迫した感じなのでコーヒータイムはあとにすることにした。


 魔法の光で照らされた下を五百メートルくらい進むと、床から三十センチのところにオレならギリ、入れそうな穴が開いていた。


 結界灯で穴の奥を覗いて見ると、かなり奥まで続いていた。


「結界ドリル!」


 右手に結界のドリルを創り出し、穴に突っ込んだ。


 ガリガリと削られるが、岩より硬いのがよくわかる。


 しかし、我が結界は神の力。壁に触れる結界は摩擦で弾け飛んでるが、創り出せるので問題ナッシング。ただ、なにかが消費されていくのはわかる。


 また使いすぎて気を失う前に中断する。


「結構削れたな」


 三十分くらいで二メートルは穴を広げられた。


「休み休みやれば貫通させられるな」


「ベー様。穴は通じてるのだからプリッシュ様の力で小さくなって通ればよろしいのでは? あとは転移結界門を設置すれば皆さん通れますし」


 うん。そういうのは早く言おうよ。オレの三十分が水の泡だよ!


「いや、ベー様がいつになくがんばってたものですから」


 オレはいつだって全力投球でガンバってるよ。たまにしかガンバらないようなこと言わないでちょうだい。


「とは言え、ここまでやって止めるのも悔しい。オレは一度始めたことは最後までやりきる男だ」


「丸投げにして放り投げる男の間違いでは?」


 そうと言わないこともないかもナッシング。さあ、やりきっちゃうぞ~! ファイト、オ~レ!


「……都合のよい方ですよ……」


 幽霊の声など聞こえな~い。あーあーあーあー!


「子どもですか」


 オレ、十一歳。憚ることなく子どもですが。


 なんて幽霊に付き合ってる場合ではございません。オレのドリルよ、唸るがイイ!


 で、二時間かけて五メートルもある壁を突破しました。


「ベー様。もう少し大きくお願いします」


「ほら、最後までやりきる男のベー様。まだ途中ですよ」


「…………」


「ほらほら」


 クッ。イ、イイだろう。オレの本気を見せてやろうじゃねーか。燃えろ、オレの大宇宙!


 ………………。


 …………。


 ……。


「──うぉらっ! どんなもんじゃい! 開けてやったぞ!」


 ゼーゼーゼー。オレはやれはできる男。貫く男じゃい!


「はい、ご苦労様ね。ベーくんは下がっててね」


 と、騎士のねーちゃんに端へと退かされた。酷っ!


「まずわたしたちが入るわ」


「わかりました。我々は出口を守ります」


 その前に我をキャンプ地に戻しておくんなまし。もう一歩も動けぬでござる。


 オレの思い、まったく誰にも通じず。


「日頃の結果ですね」


 クッ。ならば仕方がねー。転移バッチ、発動。黒鳥館へ。


 空間が繋がっていれば転移バッチで移動できるもんね~。


 誰にも気にされず黒鳥館へ出現。だ、誰かへるぷみー!


「あ、べーだ」


「なにか今にも死にそうね」


「とりあえず中に運びましょうか」


 三姉妹さん。助けてくれるのは嬉しいけど、できればもっと優しく扱ってください。てか、みっちょん。一人だけ離脱してんじゃないよ! 助けてよ!


「いや、わたし、非力だし。べーと契約してないし」


 プリッつあん。あなたの偉大さに今気がつきました。助けてー!


 ──知るかボケ!


 なんか今、プリッつあんから罵倒されたような気がするんですが、気のせいですよね?


「当たらずとも遠からず、じゃないですか? プリッシュ様のこと大事にしないんですから」


 確かに大事にしたことはないが、大事にされた記憶もないのですが。


「プリッシュ様に助けられてなに言ってるんですか。本当に大事にしないと捨てられますからね」


 なんだろう。プリッつあんを拾ったのタケルだし、いつの間にかオレの頭に乗ってたのプリッつあんじゃない。オレは強制も頼んでもないのに理不尽じゃね?


 でも、プリッつあんを敵にしたら大勢人があちらにつく。多勢に無勢。今度会えたら君に優しくしようと思いまーす。


 三姉妹に足を引っ張られながら強く思いました。あで! だから優しく扱って!


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