第1549話 食獣樹園

「あ、チビッ子さんを放置したままだった!」


 食獣樹園(今、命名しました)に来たらチビッ子さんがポツンと立っていました。


「いつものことじゃないですか。と言うか、もう数日過ぎてるのにずっと待ってたんですかね?」


「黒鳥館でお世話になってました!」


 いつにない滑らかな口調。怒りは人をここまで変えるんだな。


「アハハ。まあ、残ってて正解だぞ。ララちゃんたちは報告書作りに眠れぬ日を送りそうだからな」


「あ、あなたが、笑っていい立場じゃないでしょう!」


 ハーイ、ごもっともでーす!


「まあまあ、そんなことはどうでもイイじゃん」


「べー様はね。やらされるほうは憎しみでお湯を沸かしそうでしたよ」


 それはエコな湯沸かし法だな。コーヒーを淹れるとき近くにいて欲しいな。


「恨みたいなら好きなだけ恨んだらイイさ。オレはめっちゃヘコむけどな!」


「情緒不安定ですか」


 恨まれたら普通にヘコむじゃん。


「いや、確かにそうですけど、あーもーべー様の情緒についてけません!」


 なにやら幽霊のほうが情緒不安定のようです。


 って、こんな漫才をしに食獣樹園にやって来たわけじゃねーんだよ。


 収納鞄から生け捕りした茶色い肌をしたゴブリンを園に放った。


「チビッ子さん。しっかり観察して記録に残せよ」


「け、結局、わたしも、報告書に苦しませられるんですね……」


 そうならないために今からしっかり観察しとけや。


 オレも結界檻に食いついて食獣樹の補食シーンを眺めた。


 大地に植わっていた食獣樹の枝が微かに揺れて、大地から根を出してゴブリンを追い出した。


「意外と機敏なんだな」


 食獣樹はプリッつあんの力で小さくしたが、本来のサイズに戻ってもあの機敏さを見せるのだろうか?


 逃げ場なしのゴブリンはあっさり根に捕まり、体液を掃除機のように吸って干からびさせた。エゲつな!


「二十匹じゃ少なかったか?」


 食獣樹は五本。五匹ずつやらなきゃ不公平だったか?


「いえ、あの樹が一番多く補食してましたよ。やはり食獣樹にも捕まえるのが上手なのと下手なのがいるんですね」


 樹に個体差があるとか考えたこともなかったわ。


 でもまあ、あって当たり前だよな。種を植えたからってすべてが実るわけじゃねー。それは成長してからも変わりねーわな。農作業してきたのに不覚だわ。


「も、もっと、放り込んでください。あの樹が芽を出しました」


「メンドクセーから番号つけておくか。ほいっとなー」


 あ、ボディーガード観たくなった。オレ、あの映画好きだったんだよなー。カイナーズホームでDVD、売ってかな?


「べー様の思考、ほんと唐突ですよね。思考は伝わってるの理解できないことばかりです」


「べーの思考なんて軽く流しておけばいいのよ」


 あ、これみっちょんね。くどいようだけど前々から頭の上にいたんだからね。


「別にわたしの存在報告なんていらないわよ」


 いや、たまにいることを証明しねーとオレが忘れんだよ。お前、本当に存在なくなるときがあるんだからよ。まあ、存在感のあるプリッつあんも時々忘れるときがあったけど!


「今度は三十匹放り込んでみるか」


 最初の二十匹で火がついたのか、三十匹も五分としないて干からびさせてしまった。


「や、やっぱり、二番がお、多く補食しました!」


「逆に五番は数匹しか補食できませんでしたね」


「見た目はどれも同じなんだがな」


 そう大差ない体格(?)してるのに不思議なこった。


「他の樹も芽を出しました!」


 どうやらチビッ子さんは興奮すると口調が滑らかなになるんだな。


「与えすぎはワリーからしばらく様子を見るか」


 樹だから腹を壊すことはねーと思うが、水のやりすぎで根腐れすることもある。しばしクールタイムを置くとしよう。


 食獣樹園の横にゴブリンを入れておく小屋を土魔法で創り、三十匹ほど放り込んでおく。


「チビッ子さん。食獣樹が暴れるようならゴブリンを投入しろな」


「わ、わかり、ました」


 小屋の扱い方を教えたらまたモリブへ戻った。ふー。忙しいこった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る