第1548話 受賞式

 とりあえず、ゴブリンを小さくして結界に封印。収納鞄に仕舞った。


「そんで、一番多く捕まえたヤツは誰だ?」


「ミズイです」


 ルダールが審判兼進行役なのか、一番の者を教えてくれた。


「ミズイ。前に」


「はい!」


 と、出て来たのは女……だと思う。胸があるので。


「ミズイか。ミズイは武器争奪戦に出てなかったのか?」


 どんな名前の戦いだったかは欠片も記憶に残ってませんし、これからも残すつもりはありませーん!


「出てましたが、負けてしまいました」


「ミズイは最後にバンドラーに負けました」


「鉄拳カイザーを授与した方ですよ」


 あ、あー。あの方ね。灰色の毛だったって記憶しかないけど。※1272話


「負けたとは言え、あいつと戦える領域にいるってことか。凄いじゃん」


「いえ。勝てなければ意味はありません」


「勝ちばかり見るな。勝ちは結果だ。過程を見直せ。弱さは過程にあるんだからな」


 こいつのことなにも知らんが、どうも勝ちに焦り、勝ちに捕らわれている。そんなんじゃ勝てるものも勝てはしねーぞ。


「でもまあ、その意気やよし。お前の得物はなんだ?」


「槍です」


「よし。勲章の他に槍をやる」


 飾りっ気のない槍と言うより棒を結界で創り出した。


「そのうちまたシープリット族を集めて強いヤツを決める試合をする。そのときに向けてもっと強くなれ。お前はまだ未完成だ」 


 勲章はオレの紋章たるコーヒーカップの形のものだが、金で創ったもの。暮らしに困ったら売るとイイさ。


「はい! 必ず強くなってみせます!」


 ま、ガンバってちょうだい。自分のために、な。


「次」


「ラズイ、前に!」


 ミズイが下がると同じ茶色い毛の女が現れた。


「ミズイと名前が似てるし、毛色も似てんな?」


「ミズイとラズイは姉妹で。ラズイは二歳下の妹です」


 へー。姉妹でワンツーかい。優秀だな。


「お前も強さを求めてんのか?」


「いえ、わたしは鍛冶師になりたいです!」


 鍛冶? また変わったのが出てきたな。まあ、シープリット族もいろいろだからイイんだけどよ。


「鍛冶か。じゃあ、オレの知ってるヤツの下について学んでみるか? 今は飛空船造りに邁進してるが、オレの知ってる中で一番の鍛冶師だからよ」


 皆さん、もうすっかり忘れてることでしょうが、飛空船を造ってる人外さん。元は──いや、引退したわけじゃねーか。一時中断してるが鍛冶師として剣を打っていたお方だ。


「ちょっと待ってろ」


 紙とペンを出して紹介状を書いてやる。こいつ、鍛冶師になりたいってからよろしく~ってな。


「もらった博士ドクターさんはさぞや困るでしょうね」


「イイんだよ。人外なんて暇してんだからよ。ちょっと忙しくしてるほうがボケ防止になるさ」


「おそらく、博士ドクターさんも魔人族です。ご隠居さんと同じなんだからボケませんよ」


 あ、そうなの? 確かに言われてみればご隠居さんと馴染みっぽい関係だった。なるほど。博士ドクターは魔人族だったのか。納得だわ。


「ほれ。これ持ってクレインの町にいって飛空船を造ってるヤツにそれを見せろ。鍛冶師のところに連れてってくれるからよ」


 運がよければ会えるはずだ。自ら動け。


「まったく、適当なんですから」


 ハイ、適当ですが、なにか?


「ありがとうございます! 必ず一流の鍛冶師になってみせます!」


 その意気やよし。ガンバれ~。


「次」


「ノイヤー、前に!」


 三位は男のようで、なにか若そうな感じがした。


「若いと思うのは気のせいか?」


「いえ、ノイヤーはまだ若いです。十七歳です」


 そりゃ若いと感じるわけだ。まだ子どもじゃねーか。いや、十一歳のオレが言えた立場じゃねーがよ。


「そうか。将来有望だな。お前はどんな得物を使うんだ?」


「まだ大人の仲間入りしたばかりなのでお下がりの槍を使ってます」


 シープリット族は十七歳から大人になるのか? 


「では、三位を記念して槍をやる。一人前になったらオレが特別な槍を造ってやる。強さばかりだけじゃなく、智と勇に優れた男になれ」


 練習用の槍を出してノイヤーに渡した。


「ありがとうございます! 一生懸命励みます!」


 おう、ガンバれ。明日を担う若者よ。


「惜しくも入賞できなかった者たちもこれに腐らず精進しろ。いつか勇者になる者たちよ!」


 って、フォローしておく。腐られても困るしな。


「よし、解散! ルダール、あとは任せる」


「ハッ!」


 ねーちゃんたちが探索から帰って来る前に食獣樹にゴブリンをくれてきますかね。

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