第1537話 トリガーなべー

 デカい湖を越えるのに半日近くかかった。


「これが人工とか、昔になにがあったんだ?」


 隕石が落ちてきただったらこの星の生命が滅んでいるだろうし、掘るにしても百年単位でかかるだろう。と言うか、なんのために造ったんだ? こんなきったねー湖を?


「べー様。あそこですよ」


 背後から腕が伸びてきて森を指差した。


「レイコさんはモリブにいったことあんのか?」


「いったことはありませんが、ご主人様から聞いたことがあります。モリブには三角山が三つあると」


 よくよく見たら三角山、てか、完全にピラミッドじゃん! エジプトが転移してきたのか? また転生者が関わってんのか?


「レディ・カレット! あの三角山の辺りに着水だ!」


 レディ・マーキュリー号の船長席に座るレディ・カレットに指示を出し、湖へと着水させた。


「お見事。優秀な操船士だな。どこから見つけてきたんだ?」


 随分と慣れた着水だった。昨日今日操船士になった感じではなかったぞ。


「父様は、ベーと知り合った直後から船員育成を始めたと言ってたわ」


「あー。なんか昔、そんなこと言った記憶あんな? 公爵どのに」


 確か公爵どのとクレイン湖で会ったとき、いや、二度目だったか? あの頃も毎日のように刺激的なことがあったから記憶がはっきりしねーや。


「うちの地下には飛空船が何隻が眠っているしね。将来を考えたら船員はいくらいても足りないくらいだわ」


「つまり、レディ・カレットは習熟訓練をしているわけか」


 まあ、魔大陸まで飛んでくるのはやりすぎだと思うがな。


「べー様は南の大陸まで飛ばせましたよね?」


 うん。いつかこの星を飛空船で回れる日がくるとイイねっ!


「まずオレと見習いで降りる。なにかあればオレらに構わず逃げろよ」


「ベーが先に降りるほうがなにかあるんじゃない?」


 まるでオレがなにか起こるトリガーみたいなこと言わないで! いや、皆さん「あー」とか言わないの! 偶然がそうさせてるだけだい!


「と、とにかく、オレと見習い魔女が先に降りるの! なにかあれば逃げたらイイの!」


「なんの駄々ですか?」


 知らねーよ! オレに従えばイイの!


「見習い魔女たちは凄く嫌な顔をしてるけど?」


「お前ら、大図書館の魔女なら好奇心探求心を持ちやがれ! ほら、いくぞ!」


 素直について来ねーならまた首根っこつかんで強制連行すんぞ、ゴラァ!


「わかったよ。逆らっても無駄なのはわかってるし」


「…………」


「強引なんだから」


 不承不承なララちゃん、モブ子、ツンツインテールを連れてレディ・マーキュリー号を降り、空飛ぶ結界で陸へと向かった。


 森、とまではいかないが、それなりに木々が生い茂っており、人の手どころか獣の足もついてない。耳を済ませても虫の鳴き声もなかった。


 周辺の木々を結界刀で斬り払い、土魔法で均した。


「ララちゃんとモブ子は周囲の警戒。ツンツインテール。オレらはレディ・マーキュリー号を留められる桟橋を創るぞ。オレは右をやる。ツンツインテールは左だ」


 レディ・マーキュリー号が入れる距離を計り、まずはオレから土魔法で桟橋を創っていった。


「ただ、まっすぐに盛るだけだ。歪んだらやり直させるからな」


「わかってるわよ!」


 瞼を閉じて土魔法を発動させ、桟橋を創っていくツンツインテール。やはりこいつは土魔法の才能がある。鍛えたらオレくらいになるかもな。


 先達者として負けてられんとオレも鮮やかに桟橋を創っていった。


 五十メートルくらいの桟橋を創り、少し遅れてツンツインテールも同じ長さの桟橋を創った。


 とは言え、まだまだ未熟。五十メートルくらいの桟橋を創るだけで息を切らし、地面に崩れ落ちていた。


 まあ、及第点は出したのだから休んでろ。


 空飛ぶ結界でレディ・マーキュリー号に向かい、反転させて桟橋に係留させた。


「まだなにも起こってないわね」


「上げて落とすのがべーよ」


 失礼なことを言うレディ・カレットとメルヘン。わざわざフラグ立ててんじゃねーよ。何事もなく終わることだってあんだよ!


 いやほんと、なにもありませんように!

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