第1536話 ワンモワプリ~ズ!
「う~ん。マ○ダム」
レディ・マーキュリー号の船首で飲むコーヒーの旨きことよ。あの日の青春が思い出されるぜ。
「もうそろそろ現実に目を向けては?」
うん。そうする。
コーヒーセットを片付け、湖の浄化──あ、食獣樹のエサ! それを探しにいったんじゃねーかよ! いろいろありすぎてすっかり忘れてたわ!
さて、どーすっぺ? と考えてたらララちゃんとモブ子が船首に現れた。
オレを見るなり逃げ出す見習い魔女ども。君ら、学習しないね。
「べー様も大概学習しないですけどね」
オレは体で失敗を学ぶ男。何度失敗しようと少しずつ身につけていくのさ。
サクッと二人を確保。さあ、食獣樹のエサを探しに旅立とうではないか。
「ミタさぁ~ん! 食獣樹のエサになりそうな魔物をワンモワプリ~ズ!」
「ワ、ワンモワプリーズ? なんですか?」
「畑仕事中申し訳ございませぬ。我にもう一度教えてくださいませ、って意味だぜ」
反論は認めよう。だが、聞き入れぬのであしからず。
「廃都はダメだったんですか?」
いや、カクカクしかじか丸かいてちょんってわけですよ。わかった?
「レイコさん。説明お願いできますか?」
初対面でいきなり銃をぶっ放したとは思えないくらい自然とレイコさんにワンモワプリーズ。オレの立場が行方不明デース!
「……そうでしたか。父にそんな過去があったんですね……」
どうやらミタさん、ずっとこの村で過ごしてたそうだ。そりゃ、郷土愛が深いのも頷けるな。
「はい。今、その娘さんたちを預かって、メイド長さんに丸投げしました」
確かにそうではあるが、もうちょっとマイルドに言ってもイイんじゃないかな。優しさは大事ダヨ。
「猛獣でしたら湖の反対側にモリブと言う地下迷宮があるそうなのですが、そこには肌が茶色いゴブリンが巣くっていると、子どもの頃に聞いた記憶があります」
茶色い肌のゴブリン? そんなのいるんだ。へー。
「よし。そこにいってみるか」
見習い魔女を二人──ってアレ? チビッ子さんどこいった? てか、どこで見落としたっけ? 連れて来た記憶があるんだが、レディ・マーキュリー号の辺りから記憶にねーわ。
「ミルシェさんならあそこで雑草を見てますよ」
後ろから腕が現れて先を指差した。あ、いた。
「よかった。どこかに落としてきたんじゃないかと焦ったよ」
「……連れてきたならしっかり面倒見てくださいよ……」
オレの手は二つしかないんでな。三つ目の首根っこはつかめねーんだよ。
まあ、チビッ子さんはいらねーか。先頭を歩かせるのはララちゃんだけで充分だしな。魔大陸の植物を調べてろ。
今度は落とさないよう二人の首根っこをつかんだままレディ・マーキュリー号へと連れていった。
「レディ・カレット、出発だ! 湖の反対側へいくぞ!」
「今度はなに?」
「湖の反対側に地下迷宮があるって話だ。そこに茶色い肌のゴブリンがいるらしい。食獣樹のエサにするぞ」
「べーと一緒にいると冒険三昧ね」
苦笑いするレディ・カレット。
「嫌ならバイブラストに帰って見合いでもしてろ」
「お断り。わたしは冒険家。そこに冒険があるなら楽しむだけよ。レディ・マーキュリー号、出港準備! 次なる冒険の始まりよ!」
乗り気なレディ・カレット。こういうところは公爵どのの血を感じるな。
「べー様。そろそろ解放してあげては? モブ子さんのほうがぐったりしてますよ」
おっと。こりゃ失礼。手加減できてなかったな。ワリーワリー。ほらよっと。
「あんたは人の扱いをもっと学びなさいよ」
「そうだな。今度、オレの顔を見るなり逃げたら縄で縛りつけるよ」
「……誰かこの男に常識を教えろよ……」
世間知らずの見習い魔女から常識を語られるオレ。なんの禅問答だ?
「見習いさんでもわかるほどべー様は非常識なんですよ」
非常識な幽霊から非常識と罵られるオレ。なんの理不尽だろうか?
考えている間に出港準備が整い、レディ・マーキュリー号が離水した。
さあ、モリブと言う地下迷宮はどんなところだろうな?
「またとんでもないことが起こるんでしょうね」
そのなにかある前提やめろや。オレはただ純粋にどんな地下迷宮なんだろうと思ってるだけなんだからよ。
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