第1529話 ミガー(食獣樹)

「……時が動いた、か。そうだな……」


 オレの言葉がどこまで届いたかはわからねーが、目に力が宿り、魔王に相応しい雰囲気を出してきた。


「いや、見習いさんたちの表情見てくださいよ。完全に恐怖で顔色が不味いことになってますから」


「漏らしてねーだけ立派だろう」


 レイコさんがなにを言いたいかくらいはわかってる。魔王カガリは人外級だ。


「ヴィベルファクフィニーは新たな魔王か?」


「オレは村人だよ」


 って返したら黙り込んでしまった。ん? なんか理解し難いこと言ったか?


「まあ、理解し難い返答ではありましたね。あ、わたしのこと見えてますか?」


「……ああ、見えている。霊界の王か?」


「わたしはタダの幽霊ですよ」


 って返したらまたも黙り込んでしまった。うん。理解し難いこと言ったな。タダの幽霊じゃねーし。


「べー様だけには言われたくないです。理解し難い村人なんですから」


「どっちもどっち、ってことでしょう。変な村人に変な幽霊が取り憑いてるんだから」


 うん。君も変な妖精であることを自覚しようね。


「つまり、類友か」


 魔王からの類友発言。魔大陸では類は友を呼ぶって言葉があるのか? 


「昔、我が幼き頃に教わった」


 うん。教えたの、絶対転生者。どこのどいつだ、異世界に変な言葉を教えたバカ野郎は!? ちょっとオレの前に出て来いや!


「まあ、なんでもイイわ。オレは村人。後ろのは幽霊。頭の上のは羽妖精だ。そう納得してくれや」


「……わかった……」


 納得し難い顔だが、瞼を閉じて頷いた。いや、そこまでのこと?! 素直に受け入れられることじゃん!


「柔軟性がねーな。あるがままを受け入れろよ。考えすぎはハゲるぞ」


 美形のダークエルフがハゲたら見られたもんじゃねーぞ。まあ、いるんなら見てみたい思いはあるけど!


「話を戻すが、ここにはあんただけかい?」


「戻すもなにもなんら話は進んでませんでしたけどね」


 うん。幽霊は黙ってなさい。話が始まらないでしょ。


「娘たちがいる」


 あ、既婚者なんだ。そんなイメージなかったわ。


「そうか。一人でなくてよかったな」


 娘がいるなら動き出した時間の中でも生きていけんだろう。まだ守るものがあるってな。


「ヴィベルファクフィニーが中に入ったと言うことは、外のミガーは倒したのか?」


「ミガー? って、食獣樹のことか? それなら倒して薪にしてやったよ」


「よく倒したな。あれは魔力を糧とする。我の力では霊界化で閉じ籠ることしかできなかった」


「オレは魔力じゃない力があるからな。遠くから枝を砕いていって幹を斬り倒してやったよ」


「……そうか……」


 苦悩な顔する魔王さん。倒せたんだから喜べばイイじゃん。


「逃げるしかなかった相手を軽く倒されたら納得もできませんよ」


「相性ってもんがあるからな、しょうがねーさ」


 ジャンケンみたいなもの。勝てないからと言って落ち込む必要はねー。戦うなら勝てる手で挑め、だ。


 外に出て、ミガーの残骸を見せた。


「…………」


 残骸にはあまり興味はないようで、一瞥したら都市へと目を向けた。


「外は長い年月が過ぎていたのだな」


「霊界化すると時間の流れから切り離されて、外の時間が百年過ぎるとしたら霊界の中では一日しか過ぎてないみたいですよ」


 浦島太郎状態か。さしずめオレは玉手箱か?


「……民を守れなかった……」


「生き残りならいるぞ。まあ、数はかなり減ってはいるがな。ダークエルフなら、ミタパパ──」


 あれ? ミタパパ、なんて名前だっけ?


「レイレット・オリバーですよ」※1057話だったっけ?


 まるでピンと来ねー。そんな名前だったっけか?


「レイレットだと!?」


 あ、やっぱりミタパパを知っていたか。


「レイレットが生きているのか?!」


「生きてるよ。その娘は近くの村にいて、復興させてるよ。会いたいなら会わすぞ」


 てか、ミタパパ、どこにいるんだっけ? まったく記憶にねーや。アハハ。


「ハイルクリット島ですよ。タケルさんが危険な目にあったりウパ子さんと出会ったところですよ」


 あ、あー。あそこな。思い出した思い出した。嫌な思い出のほうが多いとこ!


「会いたい。会わせてくれ」


 頭を下げる魔王さん。部下に対する態度ではなく友人に対する態度っぽいな。


「わかった。連れてくるから待ってろ。レディ・カレット。飛空船に案内してやってくれ。野ざらしの中で待たせるのもワリーからな」


「わかたっわ」


 レディ・カレットが了承してくれたので、オレはハイルクリット島へと転移した。

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