第1528話 霊界化
「こうやって根絶やしにしてきたんですね」
人聞きのワリー……ことしましたね。ごめんなさい。お前たち。また産めよ増やせよ地に満ちよ。そしたらまたオレが捕獲に来るんでよ。
「ヨサクにしたらべー様が魔王ですね」
捕食者の頂点にいるだけで魔王にされたらたまったもんじゃねーよ。まあ、あながち間違ってはねーけど。
「食獣樹は地竜のエサにでもするか?」
五、六十メートルはあったが、地竜にはオヤツみたいな量だ。砕いて畑の肥料としたほうがイイかもな。
とりあえず食獣樹を細かく切断していくと、特大の魔石が現れた。
「植物でも魔石を作るのもいるが、まさかこんなデカい魔石を作ってるとはな」
三十センチ級とか、竜でもなかなかないねーぞ。百年くらい前からならエサがよかったってことか?
「こんだけデケーと使い道がねーな」
飛空船に使うにもデカすぎて魔力炉に入れることもできねー。まあ、カットする技術もあるにはあるが、これだけのものをカットすると難易度高いだろう。
「こう言うのは大図書館に預けるのが一番だな」
「面倒を押しつける。のが正しいのでは?」
「そうとも言う」
否定はしませぬ。大図書館に預けるのは決定事項なんだからな。
「モブ子。叡知の魔女さんに説明してくれな」
──どう説明するんですかこんなこと! 非常識すぎて誰も信じませんよ!
しゃべれねークセにマリトカの中では饒舌だな。いや、饒筆になるのか?
「そこはモブ子の腕次第。ガンバレ」
ポンポンとモブ子の肩を叩いて激励してやった。
──ほ、報告書が……。
表情と文字から哀愁が伝わってくる。なかなか豊かな感情表現をお持ちだ……。
とりあえず、魔石は無限鞄に放り込んでおいて館の食堂にでも置いておこう。
「丸投げの次は放り投げですか」
それがオレ、ヴィベルファクフィニーさ。キラン。
なんてことはどうでもイイ。まずはコーヒーブレイク一休み。一服しましょうね。
「しかし、魔王カガリって、どんな魔王だったんだ? 町並みからしてかなり高度な文明を持っていた感じだが」
建物はほとんどが崩れているが、跡から整然とした町並みだったのはわかる。
中央にある城は岩で造られており、豪奢ではないか堅牢さはあった。あれは十五世紀くらいの技術がないと無理なはずだ(あ、テキトーです)。
「こちらのほうに来たことないのでわかりませんが、これだけの都市を築くんですから三百年くらいはここら辺を支配してたかもしれませんね」
「三百年ね。結構長い治世を行ってたんだな」
長命種が多い魔大陸で三百年は短い治世かもしれんが、群雄割拠な魔大陸で三百年も続けられたら立派なもんだろうよ。
「城なら地下がありそうだな」
なんかお宝とかあったりして。ちょっと探ってみるか。珍しい本とかあるかもしれんしな。
コーヒーブレイク一休みを終え、城に向かってみた。
「またリッチとか出たりしてね」
下手なこと言うなや。もうリッチはお腹一杯だわ。
城の中に入ると、与作の棲み家だったとは思えないくらい綺麗な形で残っていた。
「……べー様。これ、霊界化になってます……」
霊界化? なんやそれ?
「まあ、結界みたいなものです。隔離された空間が現実世界と重なってるようなものです」
うん。摩訶不思議空間ってわけね。了解了解。
「その霊界化? に入ったわけか?」
「……は、はい。入りました。目の前にダークエルフの男性がいます……」
目の前? ホールが広がって、二階に続く階段が見えるだけだが?
「魔女には見えるか?」
チビッ子さんとモブ子。今こそ魔女の力を見せるがよい。
「見えません」
──み、見えます。レイコさんの言う通り、ダークエルフの男の人がいます。
そう言えば、モブ子は魔眼持ちだったっけな。見える子ちゃんか?
「ベ、べー、大丈夫なの?」
そうオレに問われても困ります。オレには見えねーんだからよ。
まあ、なんかあったら公爵どのに顔向けできねー。レディ・カレットだけは生きて返さんとな。
「ダークエルフの男はオレたちに気づいてる感じか?」
「……はい。こちらを見てます。ミタレッティーさんのお父さんより厳ついです。もしかすると、魔王カガリかもしれません……」
魔王カガリ? 生きてたのか? てか、百年間、ここにいたのか?
「皆はそこから動くなよ」
そう言って二、三歩前に出る。
「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。無断で立ち入ったことを謝罪する。もし、許されるのなら姿を見て謝りたい。不要と言うなら立ち去ろう」
やる気なら相手してやるがな。
「霊界が解かれます!」
オレにはなんもわからんが、目の前にダークエルフの男が現れた。
……確かに魔王だと言われても納得できる体つきだな……。
「わたしは、カガリ。カガリ・ロズハ。国を守れなかった無能な敗者だ」
自嘲気味に笑う魔王カガリ。なんだか前世のオレを見ているかのようだ。
「脱け殻の王だな」
「ふふ。実に的確な表現だ」
まさに空虚。ただ生きているだけの脱け殻であった。だか、オレは知っている。空っぽになったらとっくに死に至ってる。至ってないってことは捨てられない思いが一つだけ残っているってことだ
「脱け殻の王よ。時は動いた。今度こそ生きて死ね。経験者からの忠告だ」
その空虚を満たすには生きるしかない。生きて満たしたとき、本当に死ねるんだからな。
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