第1526話 中二なララちゃん
レディ・マーキュリー号。
名前だけ聞けばどこかの転生者がつけたんだと思うが、マーキュリーってバイブラスで鹿の聖獣がマーキュリーって呼ばれていたはずだ。
鹿の名を冠しているだけにレディ・マーキュリー号は速かった。時速にしたら八十キロは出てるんじゃなかろうか? 速すぎて外に出ることができなかった。
「これは駆逐艦かな?」
公爵どののリオカッティー号より小さく小回りが利いて俊足っぽい。まあ、攻撃手段がどんなのかわからんのでなんとも言えんが、オーバーテクノロジーの船には間違いないだろうよ。
歩いて五日の距離も一瞬。魔王カガリが住んでいた都市が見えてきた。
なんかクレーターの跡に造った感じの都市で、戦いがあったのか完全に崩れており、なんか木──いや、食獣樹のでっかいのが生えていた。
「栄養があるとあそこまで育つんだな」
てか、それだけの獲物がいるってことか?
「魔王種かもしれませんね」
「魔王種? なんやそれ?」
「植物が知恵をつけて魔王みたいな存在になった感じですね。魔大陸ではよくあることです。あれもまだ百年ってところじゃないでしょうかね?」
「魔王カガリはアレに滅ぼされたのか?」
感じからして五、六十メートルはありそうだ。あんなのに吸われたら竜でも秒で干からびるんじゃねーのか?
「べー。離れたところに降りるね」
「レディ・マーキュリー号、陸地に降りられるのか?」
バイブラスの地下にあった飛空船は小人族のとは違い、密封式宇宙船型だ。陸地に降りる構造にはなってねー。降りたらバランス崩れんじゃね?
「魔力は消費するけど、このレディ・マーキュリー号は空中に止まっていられるのよ」
「魔力は間に合うのか?」
「べーがくれた収納鞄があるから一月は余裕よ」
地下に魔石を持つ魔物がいるバイブラスだから可能なことだな。まあ、苦労もあるだろうけど。
外に出ると、魔王種の食獣樹のデカさが一際感じられる。もう生命の樹と変わらんサイズだな。
「よし、ララちゃんどデカいのを一発放て!」
「いきなり!? 襲ってきたらどうすんだよ?!」
「返り討ちにしろ! いずれ殲滅の魔女となる者よ!」
「殲滅の魔女?」
「そうだ。立ちはだかる敵を一撃の下に殲滅する。それでこそ二つ名が輝くと言うものだ。ちょうどよく渾身の術を放てる存在がそこにいる。迷惑かける人もいねー。こんな機会、なかなかなねーぞ。好機を活かせ。いずれ殲滅の魔女となる者よ!」
「……殲滅の魔女。一撃で殲滅する。いいかもしれない……」
ちょっと中二的な病に冒されているララちゃん。その小宇宙を燃やすのだ。
「またそうやって煽るんですから」
オレはララちゃんの夢を応援してるだけですぅ~。
やる気に満ちたララちゃんが精神集中。両手を天高くかまえた。オラに力をわけてくるか?
「お、凄まじい魔力」
ララちゃんから魔力が溢れ出し、手のひらへと流れているのがわかった。
「見てない間に力が増したな」
南の大陸のときより成長してるのがわかる。魔人族、恐るべし、だな。
ボッと火が生まれ、少しずつ巨大になっていき、やがて三メートルくらいの火の玉となった。
「あ、これはヤバいヤツ」
レディ・カレットたちを下がらせ、安全のために結界を張った。
「ちょっ、ベー、これ大丈夫なんだよね!?」
「大丈夫だ」
「ちゃんとわたしの目を見て言いなさいよ!」
自信があればちゃんと目を見て言うよ。察しなさいよ。
「わたしはいずれ殲滅の魔女となる!」
火の大玉が振り下ろされる。
いったいどんな力で飛んでいってるのか大いに興味があるが、今は結果を見守ろう。
かなり速い速度で発射された火の大玉が魔王種の食獣樹へと激突。弾けた──と思ったら霧散。飛び散った魔力が食獣樹に吸い込まれていくのがわかった。
「やっぱりか」
あれだけ大きいと獲物を吸うくらいじゃ足りないと思ったが、やはり魔力を吸うタイプだったよ。
「……べー、試させたのね……」
だって、この中でララちゃんが一番の魔力持ちだし。オレらじゃ試せないじゃん。
「ララシー!? 大丈夫?!」
全魔力を放ったようで気を失ったララちゃん。殲滅の魔女となるのはまだまだ先のようだ。
「この様子じゃ、都市に入ったら魔力を吸われてあの世いきだな」
さて。どーすっぺ?
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