第1525話 魔王カガリ

「ミタさぁ~ん。この辺に手頃な猛獣いねーかな?」


 畑で鍬を振るう農業女子。精が出ますな。


「……べー様。猛獣に手頃もなにもありませんよ……」


 あ、言われてみればごもっとも。オレの基準で言っちゃいましたね。


「訂正。猛獣いるかな?」


「いたらこんな無防備に畑仕事なんてしてませんよ」


 まったくもってごもっとも。平和でなによりです。


「困ったな~。どっかに猛獣いねーかな?」


 やっぱカムラからゴブリン狩ってくるか? 雪もすべて使い切っちまったしな。


「でしたら、ここらあちらの方角に五日ほど歩くと廃都があります。そこに魔物が住みついてると子どもの頃聞いたことがたります」


 ミタさんの子どもの頃って何年前よ? 今でも住みついてんのか?


「もしかすると魔王カガリが支配していた都市かもしれませんね。百年前まで栄えていたそうですが、戦いに負けたと聞いたことがあります」


 今さらながら幽霊の情報収集力がおそロシア。どんな電波を受信してんのよ?


「もしかして、ミタパパが仕えていた魔王って、そのカガリとやらか?」


「はい。そうだと思います。あたしは小さかったのでよくわからないんですけど」


 へー。そう言うことね。よし。そこにいってみるか。


「レディ・カレット。ワリーが飛空船を出してくれや。魔王カガリが支配してた都市に向かう」


「わかったわ! ミゼル、ライジラ。出航よ!」


「「イエス、マイ・レディ!」」


 骨の髄まで仕込まれてる護衛だこと。もう洗脳じゃね?


「あ、あの、わたし一人では正解な記録を残すなんて無理ですから残っていますね」


 逃げようとするチビッ子さんの首根っこをつかんだ。


「なら、もう二人連れてくるか」


 食堂にはまだ五人くらいいた。二人くらい連れ出しても問題ねーだろう。


「レディ・カレット。応援連れて来るから待っててくれ」


 転移バッチでサクッと向かい、食堂に向かうと見習いたちが八人いた。


 オレを見るなり金髪さんとダリムが席を立って逃げ出した。


「いい判断です」


 なにがだよ。まあ、あの二人は探索向きじゃねーから見逃してやる。なら、そばかすさんは……止めておこう。なにかとんでもないものを引き連れてきそうだ。


「よし。モブ子とララちゃんを連れていくか」


 モブ子と絡みはそれほどねーが、マトリカ(人魚製のタブレット的なやつね)を使いこなしていた。その成果を見せてもらおう。


 ララちゃんも確か魔人族だったはず。魔大陸を見せてやるか。


「逃げるな」


 南の大陸でしばらく過ごした仲だけにララちゃんが逃げ出したが、そこはもうオレの結界使用能力内。逃げられると思うな。


「わたしはまだ報告書が!」


「お黙り。君に拒否権はねー」


 オロオロしているモブ子もサクッと結界で捕獲し、魔大陸へと戻った。


 レディ・カレットたちは飛空船に戻っており、オレらも空飛ぶ結界で向かう。おっと。チビッ子さんを忘れるとこだった。


「お待たせ」


「また大図書館の見習い?」


「ああ。ララちゃんとモブ子だ」


「髪の長い子がララシーで髪の短い子がシーホーよ」


 なんでかメルヘンって名前を覚えるのが得意だよな。


「べー基準で言われてもね~」


 ハイ、そうでした~。ごめんなさ~い。


「わたしは、カレット。バイブラス公爵の娘だけど、今は冒険家としてこの場にいるからレディ・カレットと呼んでくれると嬉しいわ」


「は、はい。よろしくお願いします……」


「なんだ? ララちゃんは権利に弱いのか?」


 あの生意気さはどこにいったんだ?


「バイブラス公爵と言ったら帝国でもかなり上位公爵なんだよ! 見習いが下手な口聞けるわけないでしょうが!」


 コクコクと頷くモブ子。まあ、魔女も帝国に属してるんだからしょうがねーか。


「まあ、いきなりため口は無理だしな、我慢しろ、レディ・カレット」


「確かにそうね。自分の立場を忘れてたわ」


 公爵どのの娘だけあって寛容だが、身分を捨てることは難しい。二人の態度にしょうがないと諦めていた。


「じゃあ、出発するわ! レディ・マーキューリー号、発進よ!」

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