第1523話 妖精の酒
ハイ、食獣樹を五本、いや五体か? なんだ? ま、まあ、樹なんだし、本でいくか。
「意外と暴れるな」
折れられたら困るから弱い結界を纏わせてるが、諦め悪く枝を振り回していた。
「小さくしておくか」
別にこのサイズのまま育てる必要もない。庭で盆栽を育てるようでイイだろうよ。
あらよっと小さくし、結界檻に封じ込めた。
「ふふ。しっかり育て旨い実を生らせよ」
「食獣樹もとんだ存在に捕まったものよね」
「この世は弱肉強食。弱者は強者に食われるもんなんだよ。嫌なら強くなれ、だ」
三つの能力をもらって威張るな、とか言わんでくれよ。能力は使いこなせる知恵と技術があってこそ。どんなナイフも不器用なヤツに持たせたらなまくらも同じだ。能力頼りのヤツは能力に足を掬われるんだよ。
「さて。移植する木を掘り出すか」
結界使用能力内の木を選び、根っこごと掘り出して伸縮能力で小さくした。
計三十本を掘り出し、枯れ葉なども集めてミタさんの村へと運んで村外れに植え替えた。
「どうしてここに植えたの?」
「まずは根づくかどうかを確認するためだな。五年ほど枯れなければまた移植してくる」
覚えていれは、だけどな。
「さて。湖のほうを再開させるかね」
キャンピングカーを置いたが、どうせならクルーザーを住み家としよう。寝泊まりするならそっちがいいからな。
「汚い湖だね」
「自然にできた湖じゃなく人工湖らしいぞ。そのせいか水の入れ替えができてねーんだろう。少しずつ底に溜まった泥を取り出して水を浄化する草を移したら百年後には綺麗になるだろうよ」
水輝館と同じく花園から花人族を連れてくるか。あいつらがいると大地が回復するのも早いからな。
「ベーはどうして自分に得にもならないことするの?」
「フフ。レディ・カレットは若いな」
いや、年齢はレディ・カレットのほうが上だけど、精神性を言ってるんだからね。
「オレはやりてーからやってんだ! やりたくねーことはいくら積まれてもやらねーよ!」
欲しいものがあるなら自らの力で手に入れるわ。もちろん、オレのためになるものなら喜んでもらうけどな。
「大人はそう堂々と言いませんよ」
やりてーことやるのに大人も子どももねー。今生のオレは生きることに一片の妥協もしねーと誓ったんだ。違えるくらいなら死んだほうがマシだわ。
「自由気ままに生きるには世界が平和なほうがイイ。取り除ける問題は早目に取り除いておかねーとな」
魔大陸で世界制服を企む魔王とか生まれられたら嫌だしな。ここは、世界を滅ぼしそうなヤツが生まれやすいところだからよ。
「ベーにはなにが見えてるの?」
「素晴らしきかな人生さ」
それ以外、なにが見えるってんだ。今生のオレに無味無臭な日々はいらねー。色鮮やかな人生がよく似合うんだよ。
「レディ・カレット。人生を楽しめよ。お前が楽しんでいれば周りのヤツも楽しくなるんだからな」
友達にするなら人生を楽しんでやるヤツがイイ。こっちまで幸せにさせてくれるんだからな。
夕方まで湖の泥を取り出していき、暗くなったらキャンピングカーの前でキャンプ飯を作る。
「なに作ってるの?」
「焼きそばだよ。炭火で焼く焼きそばは絶品だぜ」
刻んだ野菜と豚肉を鉄板で焼き、焼きそばをいれて乱れほぐし! ほどよくほぐれたらソースビーム。イイ香りが食欲を湧き立てるぜ!
「お好みでマヨネーズをかけるとさらに旨くなるぜ。護衛のねーちゃんたちもたくさん食べな。竜が襲ってきても大丈夫な結界を張ってるから安全だぜ」
護衛のねーちゃんたち、二十歳過ぎてそうだからワインも出してやるか。レディ・カレットはオレンジジュースだぞ。オレの前では酒は二十歳からだ。
「わたしもお酒飲みたいよ」
「十四歳の小娘が酒など六年早いわ! 飲みたきゃいっぱしの女になってから飲みやがれ」
オレは下戸だからいっぱしになっても飲めないだろうけどな!
「年下が生意気!」
「アハハ! 年上なら年下の悪態くらい笑って流せるようになれ」
「カレット。騙されちゃダメよ。いい女は年下を黙らせるくらいの格を見せつけるものよ」
イイ女からほど遠いメルヘンがなに言ってくれちゃいますかね? それを言ってイイのは──いや、なんでもないです。口は災いのもと。女性ばかりのところでは紳士でありましょう、だ。
「べー。ソーセージ焼いてよ。あと、ハイボールも」
ハイボールって、どこで覚えてきた? てか、みっちょん、酒飲めたんだ。
「妖精は花の蜜でお酒を作ったりするのよ」
「普通に花の蜜を吸ってろよ」
夢見る子どもたちに聞かせられねーな。
「花の蜜をお酒にすると美味しいのよ。今度作ってあげるから飲んでみなさいよ。酒精は強くないからベーでも飲めるわよ」
オレはエールでも酔う体質だぞ。けど、妖精が作る酒か。それはちょっと気になる。おちょこ一杯なら飲んでみてーな。あ、酒の妖精がいたな。あいつなにしてんだろうな? ※675話ね。
妖精の酒を考えながらソーセージを焼き、マスタードたっぷりつけていただいた。あー旨い。マスター。オレンジジュース炭酸割りでちょうだい!
「誰ですか、マスターって?」
オレのイマジナリーマスターだよ!
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