第1518話 初代様はテイラー
「……あぁ、アリュアーナだ……」
地竜を見たミラ様とやらがボロボロと涙を流し始めた。
「わしは他の地で産まれ育ったが、ミラ様はアリュアーナで産まれ、去った方でもあるさね」
「どんだけ長生きなんだよ。溝に嵌まって五百年は経ってる感じだったぞ」
レイコさんの見立てだけどよ。
「そうだな。そのくらいになるかの? わしが子どもの頃はよく聞いたが、もう魔人族で知る者はそうはいないさね」
なにやら壮大なドラマがあるようだ。ちょっと本にして読ませて欲しいわ。
「その娘がそうか?」
皆には見えなかったかもしれないが、委員長さんも連れて来てるんだぜ。
「なんの言い訳ですか」
言い訳ではねー。想像の翼を広げられない方々への配慮だ。
「大図書館の見習い魔女だ。名は──」
「──こちらで訊くからお前さんは黙ってるさね」
アイアンクローされて脇に放り投げられてしまった。オレの扱い雑!
「わしは、ロースティン・ダイルジン。通り名はダジェードゥ。まあ、呼び難いだろうからダゼルでもダジーで好きなように呼んでくれてよい。さらに面倒なら隠居で構わんよ」
「ご隠居さん、名前あったんだ」
まあ、あったからと言ってオレの中ではご隠居さんに固定されてるけどな。
「べー様は黙ってましょうね」
幽霊にお口にチャックされてしまった。いや、霊体に口を押さえられても意味ないけど。
「わたしは、リンベルク。サイリーズ家の産まれだと聞いています」
「サイリーズ家か。まだ血が残っておったか。もう滅びたと思っていたよ」
懐かしそうな寂しそうな顔をするご隠居さん。
「知っているのですか?」
「三百年前くらいに別れたので、リンベルクの父や母は知らん。だが、アリュアーナでは護天七家にあった家だ。まあ、巫女の家系として神事を司る家だったよ。ちなみにわしのロースティン家は武を司る家系だ」
あ、ロースティンが家名なんだ。
「そう言えば、何百年か前に魔人族の魔王が立ったことがあります。魔天まてんのローディンとか言ったはずです」
「それは、ローディン家のマイルダートだな」
あれ? ご隠居さんにはレイコさんの声が聞こえてんの?
「辛うじてな。お前の謎力は本当に厄介で困るさね」
「その謎力、大図書館では神聖魔法と呼ばれてるらしいよ」
あれ? 聖神だっけか? まあ、謎パワーなのに変わりはないけどよ。
「ライメリアか。あれも変わった女だったな」
「誰それ?」
「初代様よ! 大図書館を創設されたライメリア・テイラー様!」
「テイラーって仕立て屋だったんか?」
いや、苗字がテイラーだからって仕立て屋なわけでもねーか。
「そう言えば、仕立て屋の娘だからとか言っておったな。テイラーとは仕立て屋と言う意味なのか?」
「まあ、そんな感じだな。詳しい意味は知らんけど」
服屋って意味だったっけか? もうよく覚えてねーや。
「ご隠居さんは、大図書館の初代と知り合いだったのか?」
「まあ、知り合いと言うか、反目し合った仲じゃな。あの頃は帝国にグレンのようなヤツがおったからの」
グレン婆のようなヤツ、ね。転生者か?
「反目って、戦争でもしてたのかい?」
「血生臭いことはしとらんよ。ただ、方向性の違いで反目してただけさね」
方向性ってバンドか! まあ、それが、一番厄介なことなんだろうがな。
「今でも反目中なのかい?」
「いや、ただ関わり合ってないだけさね。もう帝国には纏める者はおらんからな」
「人外も時の流れには勝てんってことか」
生命体である以上、いつかはその命の炎を消してしまう。もし、記憶を残そうとして奮闘してたのならオレは初代さんのほうについていたかもな。
「今度、改めて初代さんの墓に手を合わせにいかんとな」
「お前さんがあの時代におらんでよかったとつくづく思う。きっと血生臭い戦いになっておっただろうよ」
「ふふ。血の気が多かった口かい?」
「若い頃はな。よくグレンに叱られたものさね」
あいつは生まれ変わっても変わらずだったか。確かに同じ時代にいなくてよかったよ。
「すまない。アリュアーナにいけるかい?」
と、我を取り戻した……なんだっけ?
「ミラさんですよ。珍しく覚えていたと思ったらやはりべー様でしたね」
ハイハイ、オレはオレですよ。
「いけるよ」
空飛ぶ結界を創り出し、皆を乗せて地竜へと向かった。
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