第1517話 魔人族

 久しぶりにやって来ましたアーベリアン王国の王都。これと言った変化はナッシング。これと言った感慨は湧いて来なかった。


「お、店開いたんだ」


 花月館の一階が店となっており、妙齢なご婦人たちが楽しく買い物してるのが見えた。


「プリッシュが好きそうね」


「みっちょんは興味ねーのか?」


 くどい! と言われる方々もいらっしゃるだろうが、みっちょんはいることを忘れないで! この子は自己主張が下手なだけなのよ!


「ただたんにベー様が忘れてるだけでしょう。普通の人はベー様を見るより早くミッシェルさんに目がいってますよ。自分にだけ見えてる存在なのかって」


 いや、それってみっちょんが存在希薄だから確信持ててねーんじゃねーの?


「わたしはプリッシュみたいにキラキラ系じゃなく、物静か系なのよ」


 メルヘンが系とか言うな。女子高生か!


 花月館にいくとバリラやトアラがうるさいだろうから無視して、グレン婆の……なんだっけ? まあ、店にお邪魔しま~す。


「あら、いらっしゃい。久しぶりね」


 給仕服に身を包んだ居候さん。この人外さんはなんの目的でここにいるかさっぱりわからんよ。


「ああ、久しぶり。いろいろ忙しくて王都に来ることもできなかったよ」


 近くて遠いところだな。


「あら、黒羽妖精とは珍しいこと。まだ絶滅してなかったのね」


「居候さんは、黒羽妖精知ってるんだ」


「もう何百年前か忘れたけど、エルフの隠れ里で見たきりね。どこで生きてたの?」


「バイブラストの地下にある天の森って言う箱庭だよ。知ってるかい?」


「噂ていどにはね。まさか伝説の桃源郷が本当にあったとは思わなかったわ」


 さすが人外さん。噂ていどでも知っていたか。さすが叡知の魔女さんが恐れるだけはある。


「ご隠居さん、いる? ちょっと訊きたいことがあんだわ」


「ええ。二階にいるわよ」


 あ、二階とかあったんだここ。店しか知らんかったわ、オレ。


「そこの階段から二階にいけるわよ」


 階段? と居候さんが指差す方向に階段があった。いや、前来たとき確実になかったよね! ここは摩訶不思議空間か?


 階段を上がると、ご隠居さんと初めて見るばーちゃん──人外がいた。


 ……魔力は弱いが、ご隠居さんくらいの圧があるな……。


「こんちは、ご隠居さん。お邪魔してもイイかい?」


 逢引なら回れ右してさようなら~、するけどよ。


「構わんよ。将棋しながら茶を飲んでただけさね」


「ワリーね。ちょっとご隠居さん借りるわ」


「いいさね。ウワサの村人ならおもしろい話が聞けそうさね」


 さねって、もしかして訛りかなんかなのか? ご同郷か?


「で、なんさね? また厄介事か?」


「オレは厄介事を運ぶ使者かよ」


「ほぼ、お前さんは厄介事しか運んで来んがな」


 ま、まあ、厄介事を押しつけたことも多々あるし、深く否定しておくのは止めておこう。


「おほん。ご隠居さんって魔人族なんだよな?」


「ああ、滅びかけの種族さね」


 見た目は人と変わらんが、中身は人と違うんかな? 


「実は魔大陸でアリュアーナって地竜──」


「なんだと!? アリュアーナだと?!」


 ご隠居さんだけではなく人外ばーちゃんまで席を立ち上がった。な、なによ?


「あ、ああ。大図書館から預かった見習いの中に魔人族がいてな、地竜と意思を交わしたんだよ。だから魔人族であるご隠居さんにその関係性や歴史を教えてもらおうと来たわけよ」


「……ベー様にしてはまともな説明です……」


 オレはいつだってまともな説明してるよ! ただ、理解されないだけだい!


「……アリュアーナが、目覚めたのか……?」


「ああ。溝に嵌まってたところをオレが掘り返して出してやった。今は腹壊して休んでるよ」


「……お前さんが言うと、どんなことも笑い話になるさね……」


 オレは別に笑い話にしてるわけじゃねーけどな。


「まあ、よくわからんが、ちょっと魔大陸まで来てくんね? オレじゃどうしようもねーんでよ」


 魔人族のことは魔人族にお任せするのが一番。よろしくお願いスマッシュ! と、転移結界門を創り出した。


「わかった。ミラ様」


 様? ご隠居さんより偉い人外なの?


「ああ。まさか帰られる日が来るとはね。村人さん。連れてっておくれ」


 とりあえず、転移結界門を繋ぎ、魔大陸へと人外二人を連れ出した。

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