第1516話 マイオリットの民
「あまり綺麗な湖じゃねーな」
湖畔に立ち、湖の水質を見て言葉が漏れてしまった。
レイコさんの話では人工湖らしいが、水草は生えており、魚もいるようだ。長い年月で流れて来る川と流れていく川があるのかな?
土魔法で桟橋を創っていき、湖へと出てみる。
濁りが酷くて底が見えないので、結界で堰を創り、水を抜いてみた。
「泥ってよりヘドロだな」
土魔法でヘドロをかき集めて結界で乾燥。凝固させて脇に置いておき、周囲百メートルを綺麗にしていった。
「ふー。さすがに一日じゃ綺麗にならんな」
実際には半日もやってねーが、これでは数日はかかる。これは長期を見越してたほうがイイかもしれんな。
辺りも暗くなったので、今日は簡単に土盛りの家を創り、軽く食って眠りへとついた。
「──あ、委員長さんどうしたっけ!?」
眠りにつく前に委員長さんがいないことに気がついた。
「今さらですか? シュヴエルさんのところに放置してきましまよ」
あ。なんか、そこで委員長さんの首根っこを離した記憶が……あるようなないような? まあ、あそこならカイナーズもいるし問題ねーな。寝よっ。
「いつかリンベルクさんに殺されますよ」
見習い魔女に不覚を取るようならS級村人として失格。殺れるなら殺ってみるがよい。でも、本気でやられるとメンドーだから謝っておこうっと。お休み~。
──殺気!!
で目が覚め、ベッドから飛び起きた。
「チッ」
転げ落ちたオレに舌打ちする委員長さん。その手にはバットが握られていた。
「ま、まずはその物騒なものを置こうじゃないか! 暴力はいかんよ!」
「問答無用で棍棒を抜いて暴力に走る方のセリフとは思えませんね」
オレの背後にいないで助けろや! 今まさにバット殺人事件が起こりそうなんだからよ!
「どうせ殴られたくらいじゃ死なないんですから殴られてあげたらいいじゃないですか。そのくらいのことしてるんですから」
いや、普通のバットなら殴られてやってもやぶさかじゃねーが、そのバット、なんかヤベー感じがまとわりついている。殴られたら確実に泣いちゃうなにかがまとわりついてるよ!
「あー。たぶんアレ、呪言の木ですよ」
「呪言の木? なにそれ?」
ヤベーもんってのはわかるけど。
「人の恨みや怒りを吸って成長する木です。まあ、食虫植物の亜種ですね。咲かせる花は綺麗ですよ」
今はそんな情報いらねーんだよ! どうにかできる情報をよこしやがれ!
「普通に奪えばいいと思いますよ。恨みや怒りがなければタダの木ですから。べー様得意の明鏡止水で奪えばいいんですよ」
簡単に明鏡止水の心境にはなれんよ。とは言え、今のオレに恨みや怒りはナッシング。ヒョイと委員長さんから呪言の木を奪い取った。
「バットかと思ったらタダの棒だな」
委員長さんが持ってたときはいやな感じがしたのに、オレが持ったらタダの棒になった。邪な思いがあると変わるのかな?
「……あ、あれ? わたし……?」
正気を取り戻した委員長さん。呪言の木を持ってる間の記憶はナッシング?
「おはようさん。とりあえず顔を洗ってこい」
シャランラーとシャレオツな風呂を創ってやる。嫌なことは忘れてさっぱりしておいで~。
風呂に押しやり、深いため息をついた。フィー。危なかった。
「てか、本当にどこから持ってきたんだ、これ?」
「シュヴエルさんのところじゃないですか? 奇形岩の下に木が落ちてた記憶があります」
あー。オレも記憶にある。岩を固定するものかと思ってたわ。
「厄介なのを残してくれてんな。あそこ、立ち入り禁止にしなくちゃな」
なんか他にも厄介なのがありそうだし。
委員長さんが上がってくる前に転移バッチを発動。シューさんがいるドームへと向かった。
「どうした、ヴィベルファクフィニー?」
「その岩の下にある木、ちょっと危険だから誰にも持たせんなよ。つーか、なんで委員長さんに触らせてんだよ」
「アリュアーナが授けた。マイオリットの民の証として」
マイオリットの民? またわからんことが出て来たよ。
「遥か昔、アリュアーナに住んでいた民だ。あの者はその流れを汲む者だ」
「あ、思い出しました。マイオリットって魔人族が信仰していた神の名前です」
あなた、都合よく思い出すよね……。
「あの木、恨みや怒りを糧にするんだろう? 持たせて大丈夫なのか?」
バーサーカー状態になってたぞ。
「あの者が未熟なだけだ。マイオリットの民なら子どもでも持てるものだ」
委員長さんは子ども以下ってことかい。まあ、未熟なのは同意だけどよ。
「あの木はマイオリットの民の証であり、マイオリットの民を活かす面もある。常に持っておくといい」
ハァー。また厄介なことを。慣れるまでバーサーカー状態かよ。
「こりゃ、ご隠居さんを召喚しないとダメだな」
オレにはどうにもできん。委員長さんと同じ魔人族であるご隠居さんを頼るとしよう。
「また来る」
そう言って湖畔に戻った。
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