第1504話 才能

 転移した場所は雪の中だった。


 まあ、カムラは山国。雪が降る地と知っていたから少し上空へと転移するようイメージしたのだが、予想以上に雪が積もっていた。


 すぐに結界で雪を吹き飛ばし、地面へと降りた。


「スゲー雪。よくこんなところに住めるよな」


 これ、五メートルは積もってんじゃね? 人が住む場所じゃねーよ。スローライフドンと来いなオレでもこんなところには住みたくねーな。


「ここに開拓村があるの? とても人が住めそうなところには思えないんだけど」


「あるよ。オレも信じらんねーけどよ」


 昔、いく人かに仕掛けた結界は残っている。死んだら消えるよう設定してあるから生きてるのは確かだ。


「これから姿を変える」


 老薬師の姿にマジカルチェンジする。


「今からオレは旅の老薬師。見習い二人はオレの弟子。ねーちゃんらは護衛だ。メスのゴブリンを探している設定でいく。交渉はオレがやるから合わせてくれ」


「この雪の中にやってくる集団を受け入れてくれたりするの?」


「こう言う開拓村って閉鎖的なところが多いわよ」


「そこは当たって砕けろだ。断られたら断られたときだ」


 どうしても開拓村にいきたいってわけじゃねー。ただ拠点となる場所を作るのがメンドクセーから開拓村を選んだまでだ。


「いくぞ」


 結界で雪を吹き飛ばしながら進むと、柵が見えてきた。


 以前来たときは三年前の夏前だったっけか? オカンの心臓病がわかったり殿様と会ったりと、毎日のようにいろいろあったっけな~。


「昔からいろんなことに巻き込まれたり巻き込んだりしてたんですね」


「今ほどではねーよ」


 この数ヶ月の目まぐるしいことよ。所々思い出せないことがあるぜ。


「何者だ!」


 こんな雪でも見張りが立ってるとかご苦労様だな。それともこの雪でも現れる魔物でも出てくんのか?


「数年前に来た薬師の爺だよ。覚えてるかい?」


 そう人が訪れるところではねー。誰か来たなら忘れねーはずだ。


「爺、あんたか!? この雪でよく来れたな?!」


「覚えてもらえててよかった。ちっとばかり厄介な仕事を受けてしまってな。護衛を頼んでやって来たんじゃよ。入れてもらえるかい? 礼はするんでな」


「少し待ってくれ。村長を呼んでくる」


 見張りの男が村長を呼びに駆けていった。


「なにか警戒してるみたいね」


「バーフォーでも出たかしら?」


「バーフォー? なんだいそりゃ?」


 初めて聞く名だぞ。いや、忘れてるのかもしれんけどよ。


「豹ってわかる?」


「ああ。暑い地方にいる獣だろう」


 豹は豹でも異世界風味のある豹だ。綺麗な毛を生やしていてよく狙われると聞いたことがある。


「雪豹は寒いところの獣でたまにカムラに現れるそうよ。わたしらは見たことはないけど」


 アリテラたちが見たこがないとなれば、そう頻繁に現れる獣ではないようだ。


「来たわよ」


 騎士のねーちゃんの声に視線を向けたら村長と村のもんがやって来た。


「あんたか。この雪の中よく来れたな」


「少々無理をした。薪と食料は持参したんで入れてもらえるかい? 病人か怪我人がいるなら診るぞ」 


「頼む。今年は雪が多い上に人型の魔物まで出て困っているのだ」


 あらやだ奥さん。また厄介事ですってよ。スローライフ詐欺とか言われちゃうわ~。


 村へと入れてもらい、軽く事情を聞いてから熱を出す者の家へと向かった。


 一目見て栄養失調からくる衰弱で肺炎を起こしているのがわかった。冬に年寄りがなり、大体これで死んでしまうのだ。


「火を焚け。家の中を暖めろ」


 薪を出して火を起こさせた。


「弟子たち。これを少しずつ飲ませろ。栄養剤だ」


 オレ特製の栄養剤。飲めば命の泉湧く。肺炎でも乗り越えられるくらいハッスルするぜ。


「それ、ご主人様の……」


 しー! 知らなきゃ効き目のある薬。知らぬが仏だ。


 このうちには怪我人が二人おり、診ると噛みつかれた跡や殴られた跡があった。


 ……魔物と言うより人にやられた感じだな……?


 なにか不可解な傷だが、これなら回復薬を飲ませればあら完治。オレ特製の栄養剤を飲ませた。


「薬師殿。年寄りも診てもらえるか?」


「当たり前じゃ。薬師として見て見ぬ振りはできん」


 薬師は慈善事業ではないが、患者を前に逃げることは恥だ。助けてから考えろ、だ。


 年寄りがいる一軒一軒回って年寄り、子供を診ていき、薬を与えて食事を摂るよう伝えていった。


「な、なぜそこまでする、の、ですか?」


 すべてが終わり、村長の家で休んでいたらサダコがおずおずと尋ねてきた。


「おもしろいからじゃよ」


 ここには村長やその家族もいるので老薬師として答えた。


「お、おもしろい、ですか?」


「ああ。自分が煎じた薬で病気や怪我が治る。おもしろいではないか。お前も解剖するのおもしろいじゃろう? それと同じじゃよ」


 納得はされないだろうがオレは同じだと思ってる。


「好きを極めろ。それは必ず自分のためになり、人のためになる。誰も認めなくともわしはお前の好きを認める。お前の好きは才能だ」


 生き物を切り刻むのが好きなんて気持ち悪がられるだろうが、いずれ外科手術する日がくる。なら、サダコの好きは必ず役に立つ。極めて後世に繋げればたくさんの命を救えるのだ。


「好きを極めるためにあらゆることに興味を持て。お前には才能があるんだから」


 パンパンとサダコの頬を叩いて気合いを入れてやった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る