第1505話 変なもの

 粗方病気や怪我人を診て回ったらすっかり暗くなってしまった。


 ここから帰るのも不審がられるので、空いてる場所を借りた。


「ふんっ!」


 しばしの瞑想ののち、右足で地面を叩いた。


 久しぶりの土魔法なのでちょっと力んでしまったが、まあ、イイ感じの家が創られた。


「相変わらずメチャクチャね」


「そう言えば、ボブラ村にいたときも一日で家を作ってたわね」


「一泊するだけなのに凝りすぎでしょう」


 騎士、斥候、魔術師のねーちゃんによる連携突っ込みは健在のようである。


「オレは一泊でも妥協しねー男。創るからには最高のものを、だ」


 なので風呂も創ります。雪見風呂とかシャレオツである。


「ベー。ちょっと散歩してくる」


「変なのを引き連れてくんなよな」


「大丈夫よ」


 存在感たまにゼロになるみっちょんがオレの頭からテイクオフ。どこかへと飛んでいってしまった。


「ミッシェルさん、大人しそうで行動的ですよね」


「まあ、羽妖精の習性だろう」


 共存と言いながらどこにいるかわからん自由気ままな妖精もいる。勝手にしろ、だ。


 薪風呂を創り、結界で雪を集めて解かし、濾過して湯船に溜めた。


 無限鞄から薪を釜に放り込んで火をつけた。


 銭湯並みにデカくしたから沸くまでには時間がかかるので、家のほうの暖炉にも薪を放り込んで火をつけた。


「雪が降るところでスローライフなど御免だと思ったが、これはこれで楽しいな」


 結界窓から降る雪を眺めながら飲むコーヒーの旨さよ。スローライフしてるって感じてしまうぜ。


「なにか楽しいことあったかしら?」


「家を作ってお風呂を作って暖炉に火を入れただけよね?」


「ベーくんの感覚はわからないわ」


 そこの連携突っ込み娘ども黙らっしゃい。雰囲気が壊れるわ。


「それより食事、どうする? なにも持ってこなかったわよ」


 一人連携突っ込みに参加しないアリテラさん。ちゃんと仲間と上手くやれてるよね?


「館に食いにいけばイイさ」


「さっき帰るのも不審がられるとか言ってませんでした?」


 ただ夕食を食べに戻るだけです。帰るわけではありません。


 転移結界門を創り、館の食堂へと繋いだ。今日の夕食なんだろな~♪


「お前は相変わらず唐突だな。どこから帰って来たんだ?」


 館もちょうど夕食時だったので親父殿たちも揃っていた。


「いや、ちょっと夕食をいただきに戻っただけだ。食ったらすぐ戻るよ。あ、こっちのねーちゃんたちは闇夜の光だ。名前くらいは聞いたことあるよな?」


 確か、お互い会ってないよね? あれ? 会ったっけ? 


「知ってるよ。カムラの冒険者ギルドで何度か会ったからな。うちのバカが迷惑かけてすまないな。こちらで夕食を食べてってくれ」


 息子を放置してねーちゃんたちを囲炉裏間に案内する親父殿。ひどっ!


 なんてことはどうでもイイ。メイドに混ざって夕食をいただきます。あーうまうま。ごちそうさまでした。


「あ、メイドさんや。鍋にスープを入れてくれや。あとパンもいくつか包んでちょうだいな」


 給仕担当のメイドにお願いしてスープとバスケットにパンをもらった。みっちょんが帰って来たら食わせてやらんとな。


「ねーちゃんたち。オレは先にいってっからゆっくりしてきな」


 席を立って転移結界門を潜る。


 暖炉に薪をくべて風呂に向かい、沸き具合を確かめる。もうちょい熱くてもイイかな?


 釜に薪を入れて様子をみる。


「……また降ってきたか……」


 結界灯を創り出し、降る雪を眺める。


「そうだ。入浴剤を入れるか」


 確か前にカイナーズホームで買ったはず。


「お、あったあった。買っててよかった入浴剤。草津か? 箱根か? 別府か? お、柚子があるじゃん」


 この世界で冬至もねーが、雪見風呂なら柚子がイイだろう。


「柚子ってこんな匂いだったっけ?」


 柑橘系の匂いはするが、柚子の香りがどんなだったか思い出せん。まあ、イイ匂いだしなんでもイイや。


 湯に入れた粉を全面に行き渡るよう腕を入れかき回した。


「ねーちゃんらが戻って来る前に入っておくか。ドレミ。いろは。見張り頼むな」


「「イエス、マイロード」」


 服を脱いで結界桶で湯を掬い、かけ湯してから湯船に入った。


「フヒィ~。イイ湯だ」


 柚子の香りもイイ。なんか山の中にある高級旅館に来たっぽいぜ。いや、いったことねーけど。


「ベー!」


 あービハノンノンと湯に浸かっていたらみっちょんの声が轟いた。


 なんや? と閉じていた瞼を開いたら、みっちょんが湯になにかを放り込んだ。


「……オレのビハノンノンが……」


「ベー! 変なもの拾っちゃった!」


 次回からは変なものを拾ってくんなと言わないとな……。


「で、なにを拾ったんだ?」


 沈む変なものを引き揚げたら、確かに変なものだった。

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