第1503話 開拓村へ(書籍五巻参照)

 夜遅くまでメスゴブリンの姿を探っていたから次の日は九時くらいまでベッドから起きれなかった。


「おはようさん。早いんだな」


 アリテラたちはとっくに起きていたようで、のんびり紅茶を飲みながらおしゃべりしていた。


「ここはお風呂に入れてふわふわの寝台で眠れるからね、短時間でも熟睡できたわ」


 そう大したもんじゃねーのにな。冒険者は過酷な毎日を送ってるようだ。


「メイドさん。コーヒーを頼むわ」


 目覚めの一杯をいただき、今日も生きれることを感謝する。


「てか、見習い魔女はどうしたい?」


 昨日解散してからのことは知らんのよね。どこに帰ったんだ?


「カムラのほうに帰っていったわよ。まだいろいろやってたわ」


 とは斥候のねーちゃん。いつの間にか見にいってるとか斥候役なだけはある。


「メスのゴブリンか」


 テーブルに置いたままのスケッチブックを取り、限りなく似たものになったメスゴブリンの絵を眺める。


「さがせば見つけられるかな?」


 検体に一匹欲しいよな。ホルマリン漬けにしたら大図書館に置いてくんねーかな。


「自分のところには置かないんですね」


 自宅に置くとサプルに捨てられるんだよ。せっかく集めた虫の標本も容赦なく捨てられたしよ。まあ、そのお陰で収納鞄が誕生したんだがな。


「メスのゴブリンがそんなに気になるの?」


「希少な存在だからな、手に入れられるなら欲しいな」


「悪趣味すぎない?」


「ゴブリンってのは不思議な生き物でな、命のサイクル──短命ながらあらゆる環境に耐えられる種族なんだよ。その意味がわかるか?」


 ちんぷんかんぷんな顔を見せるアリテラたち。まあ、わかったら先生のところに連れてって弟子にさせるけどな。


「死に至る毒を少しずつゴブリンに与えるとそのうち毒を無力化してしまうんだ。それはつまり、その毒に対抗できるなにかがあるってことだ。そのなにかを見つけて人に活かせることができれば人もその毒を克服できるってことだ」


 なんて技術を確立するには何百年とかかるだろうが、誰かが始めて受け継いでいかなければ答えに辿り着けない。知識は積み重ねないと意味はないなのだ。


「ベーがなにを言いたいかさっぱりだわ」


 だろうね。これは大図書館の分野だからな。


「メスゴブリンの捕獲とか冒険者ギルドに依頼したら受けてくれるかな? 金貨十枚で」


「たぶん、金貨二十枚でも受けないと思うわよ。探して見つけられるものでもないしね」


 そっか。それは残念だ。だが、いると知れただけでも収穫か。暇ができたら探しに出てみるとしよう。


「あ、そうだ。依頼を奪っちまった損害を払わなくちゃな」


 無限鞄からエルクセプルを収めた箱を取り出し、アリテラたちに一本ずつ渡した。


「いざってときに使いな」


 まあ、いざってときが来ないのが一番だけどな。お守り代わりに持っておけ。


「……ベーにかかると伝説も日常になるのね……」


「エルクセプルを作るのはそう難しくねー。竜を狩れる力と一定の腕のある薬師がいれば作れるものだ。難しいのは入れ物を用意することだ」


 まっ、結界魔法とやらがあればそれなりに効果は止めておけるはずだが、それは黙っておくとしよう。面倒事に巻き込まれないためにな。


「使ったときの様子を教えてくれるならまた新しいのをくれてやるよ」


 症例はいくつあっても困らない。エルクセプルの謎に近づけるんだからな。


 朝食を食って一休みしたらカムラへと向かった。


 魔女さんたちは忙しく動いており、嫁さんの部屋にいったら面会謝絶だった。


「治験中です」


 ドアの前に立つ地味な魔女さんが教えてくれた。


「そっか。オレは出かけるからそう伝えてくれや」


 また漬物買いへと繰り出してみるか。南大陸にいったときのために食料調達だ。


 外に向かっていたら、玄関にサダコとララちゃんがいた。どした?


「ミレンダがゴブリンを解剖してみたいんですって」


「き、昨日、ゴブリンの話をして興味が出、たんです」


 いつになく自己主張するサダコ。サイコでマニアな魔女だぜ。


「じゃあ、探しにいってみるか。前にいった開拓村ならゴブリンの情報があるだろう」


 ゴブリンは冬眠することはなくエサを探して動き回っている。一時間も探したら見つけられんだろうよ。


「わたしたちもいくわ。暇だしね」


「好きにしな」


 冒険者なんて冒険してないと死んじゃう生き物。疲れるまで動き続けろ、だ。


 外に出ていくメンバーに触ってもらい、転移バッチを発動。開拓村へと向けて転移した。 


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