第1492話 ご説ごもっとも
騎士のねーちゃんに連れて来られたのは町外れにある豪邸だった。
貴族の館っぽいが、警備している男たちは冒険者をマシにしたような装備で、兵士感は丸でなかった。
「商人、いや、違うな。誰の屋敷だ?」
商人特有の人に見せる豪華さはねーし、自分の力を示すマフィアの豪華さもねー。まさに質実剛健。贅沢を知らずに暮らしてきたヤツの屋敷っぽいな。
「元冒険者の家よ」
「成功者の家か。まさにそれを体現したかのような屋敷だな」
大金は稼いだが、その大金をどう使うかわかってねー。豪邸は建てたが、職人に言われるがままに造った感じだ。
「べー!?」
玄関まで来たら中からアリテラが出て来た。あら、お久さ。
「どうしてあなたがいるの?!」
「ちょっと金策にな。競りにいこうとしたら騎士のねーちゃんと出会ってここまで連れて来られたんだよ」
「べ、べー様がまともな説明をするなんて!?」
なに失礼なこと言っちゃってくれますかね背後の幽霊は? オレはいつもまともに説明してるよ。
「アリテラ。そんなことよりサウルス様に取り次いで。薬師を連れて来たって」
「わ、わかったわ」
なにやら急を要するようで、屋敷の中へと引き込まれてしまった。
屋敷の中もなんかチグハグな装飾が飾られてんな。華やかにするためにとりあえず集めましたって感じだわ。
メイド的な女にサウルス様とやらを呼ぶように伝え、しばらくして二階から四十過ぎくらいの厳つい男が下りて来た。
……なるほど。確かに成功した冒険者だわ……。
金の使い方って学ばないと身につかないとわかる姿である。まさに成金だな。
そう考えると親父殿が生まれがよく、ちゃんと教育されたってことがよくわかるよ。
「薬師と聞いたが、その少年か?」
成金ではあるがバカではねーか。見た目では判断しねーとはな。叩き上げなのは間違いねーようだ。
「はい。見た目はこれですが、腕は確かです」
これ扱いですか。まあ、短い付き合いだったが、その短い付き合いの間にいろいろあったしな。しょうがねーか。
「つまり、これ扱いされるところをたくさん見せた、ってことですね」
ノーコメントです。
「どうも。オレは、ベー。隣のアーベリアン王国のもんだ」
「わ、わたしは、サウルスだ。元冒険者で今は隠居している」
四十過ぎで隠居。元の世界なら早いかも知れねーが、冒険者なら四十過ぎてもやってるのは極少数。真に実力があるか能力がなくてその日暮らしかのどちらかだろうよ。
「そんで、薬師を呼ぶってことは病人いるってことだろう。案内しな」
自己紹介などあとでもできる。優先されるべきは病人だ。
「こちらだ」
と案内された部屋に三十半ばの女がいた。
「……なんの結界だ、これ……」
女の周りに薄いシャボン玉みたいなものが覆っている。魔術や魔法ではない。精霊術か?
「清浄の守りよ。汚れたものを浄化する精霊魔法よ」
答えたのはアリテラだ。まあ、こんなことできそうなのはアリテラくらいだしな。
「精霊術とは違うのか?」
「魔術と魔法が違うくらいにはね」
そこはエルフやハーフでもないとわからないってことか。種族の差は大きいな。
「妻のメリアルだ。少し前から謎の奇病に冒されて清浄の守りに入っている」
「奇病?」
「ええ。肌に湿疹が出たり咳をしたり酷いときは熱を出すわ。清浄の守りの中なら症状は抑えられている感じね」
「それで毒と判断したわけか」
まあ、毒と言えば毒みたいなもんだわな。
「なんだかわかるの?」
「原因がなんであるかはまだわからんが、症状からなにが起きてるかはわかる。ハウスダストアレルギーだな」
オレもそこまで詳しくねーが、症状からしてハウスダストアレルギーには間違いねーだろうよ。
「ハウスダストアレルギー? なんなのそれ?」
「家の中の埃やダニ、花粉や衣服の欠片、人の目には見えないものが体に入って悪さする症状だな。たぶん、奥さんはその小さなものを上手く排除できなくて体が異常を起こしてんだろうな。この清浄の守りってのがイイ証拠だ」
てか、この精霊魔法イイな、空気清浄機みたいでよ。エルフなら使えんのかな? 使えたらうちで雇い入れようっと。
「そ、それは治るのか!?」
「体質改善すれば治るだろうが、単純に引っ越せばイイと思うぞ。原因はこの屋敷だからな」
アレルギーは薬で治るんなら苦労しねー。いや、エルクセプルで治るか? ちょっと実験してみるか?
「ダリム。委員長さんとチビッ子、あと、メガネ女子を呼んでこい。もし、叡知の魔女さんもいたら一緒に連れてこい。エルクセプルの検証をする」
「委員長とかチビッ子とか誰よ?」
「委員長はリンベルク。チビッ子はミルシェ。メガネ女子はロミナよ。この子があだ名で覚えてるって報告されてるでしょう。ちなみにわたしは金髪よ」
「知らないわよ! あだ名を覚えるくらいなら名前を覚えなさいよ!」
ご説ごもっとも。だがオレはあだ名で覚えたほうがすんなり頭に入るタイプなんだよ。
「イイからさっさと呼んでこい!」
部屋の隅に転移結界門を設置し、ハブルームへと繋いだ。
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