第1493話 メガネ先生

 しばらくして魔女たちがやって来た。


「何事かしら?」


 叡知の魔女さんは用があるのか魔女さんズの中にはおらず、この代表と思われる色っぽい魔女さんが尋ねてきた。


「診察だ。医療に長けた魔女は誰だ?」


「フィーラ」


 と、痩せこけた魔女が色っぽい魔女さんの横に立った。


「確か、サダコと一緒にいた魔女だよな? 解剖が得意なんじゃなかったっけか?」


 サダコに解剖室を与えたとき、一緒にいた魔女だよな?


「フィーラは医術を学んでいて、外傷や怪我を専門にしているわ」


「外科医みたいなもんか」


「げかい?」


「傷ついた皮膚や筋肉、神経を繋ぎ合わせたり体の中にできた病巣を取り除いたりすることを専門とする医者のことだな。今回は内科、体を裂かずに薬や原因を見つけるのを得意とする者のほうがいいな」


 今回はアレルギー。その原因を見つけ、エルクセプルの効果を推測できる魔女を求めているんだよ。


「あなたは細かく決めるのね?」


「大図書館だって一部門で捌き切れねーからいろんな部門があるだろうが? 人の体も同じだ。突き詰めようとしたら人の体は一人の力じゃ計り知れない謎に満ちている。目、口、鼻、頭、首、肩、胸、腕、足と細かく分けたら百や二百じゃ追いつかねー。ましてや病の原因までとなったら千人いても追いつかねーよ。人体ナメんなだ」


 医学を学んだわけでもねーオレでも専門医がたくさんいることを知っている。一人じゃ対応できねーから増えていったってな。


「今回はアレルギーだ。体を守る免疫が過剰に働いている。その原因は、この部屋かその近くにあるものだ。埃、フケ、花粉、木材、小さな虫、原因となるもの数え切れないほどある。それを治そうとするなら症状を見て、患者の暮らしを聞き、その原因を探る。それができる魔女はいるか?」


 オレの問いに魔女たちは沈黙で返した。


 まあ、いたら土下座して弟子入りするけどな。


「急に言われても無理なことはわかっている。まずは患者からいつ頃から症状が出たかを訊き出せ。もちろん、ちゃんと記録しろよ。医学の道は地道な症状集めからだ。それはやがて人を救う技術となり、知識となる。大図書館の魔女を名乗るなら知に貪欲になれ。受け身でいたら年月に押し流されるぞ」


 ただ、本を管理しているところなら他国に留学生を出したりオレにくっついたりはしてねーはずだ。叡知の魔女さんとしては大図書館の在り方を再認識したんだろうよ。


「……わかった。ライルリー」


 とメガネをかけた魔女がでてきた。


 魔女は年齢不詳なヤツが多いな。だが、感じからして四十前後だろう。なら、メガネ先生だな。


「……また見た目で決める……」


 だって見た目でその人を覚えてるんだもん。しょうがないよ。


「アリテラ。ワリーが魔女さんたちに説明してやってくれ。こちらは情報と結果さえもらえたらそちらの報酬をせがんだりしねーからよ」


「ハァー。あなたは相変わらずね。わかったわ」


「アリテラも相変わらずで嬉しいよ」


 と言ったらアリテラにデコピンされてしまった。痛くはねーが、なんでデコピンされたのよ、オレ?


「なるほど。べー様の犠牲者ですか」


 犠牲者ってなんだよ? オレ、アリテラになにもしてないよ?


「騎士のねーちゃんと依頼人のおっちゃん。別の部屋で話をしようや。色っぽい魔女さん。ついてこい」


 魔女代表として患者の家族と立ち会えや。


 おっちゃんの案内で別室へと向かい、四人で話すことにする。ってか、他のねーちゃんたちはどうした?


「二人は情報収集に出てるわ。まあ、夜には帰ってくるから問題ないわ」


 チームプレーがイイパーティーだし、騎士のねーちゃんがそう言うならそうなんだろう。


「ドレミ。皆にお茶を出してくれ」


 おっちゃんを落ち着かせるための間を作っておこう。


 沈黙の中、幼女型メイドになったドレミが人数分のお茶を入れてくれた。


「さて。落ち着いたところでおっちゃんの嫁さんだが、大病ってわけじゃねーから安心しな。まあ、一種の病気ではあるがな」


 アレルギーの概念すらねーおっちゃんに理解させる時間が惜しいから病気ってことにしておこう。


「死ぬってことはないんだな?」


「いや、酷いと死ぬこともある。おっちゃんも冒険者だったなら傷を放っておいて腕を切り落としたり死んだりしたって話、聞いたことはあるだろう? ちゃんと手当てしねーと死に至ることもあるんだよ」


「さっきべーくんが言っていたここを離れるのではダメなの?」


 さすがリーダー。よく覚えている。


「もちろん、それもありだ。だが、移ったところでも同じことが起こる可能性は残る。せめてなにが原因かは知っておくべきだろう」


 それがアレルギーなら、な。


「幸いなことに医療に長けたヤツがいる。帝国の魔女が診てくれるなら診てもらったほうがいイイと思う。もちろん、強制はしねー。おっちゃんの嫁だ。おっちゃんが考えて決めな」


 承諾は必要だし、あとで騒がれても面倒だ。ちゃんと証人がいるところで決めてもらいましょう。


 ってことを色っぽい魔女さんに教えた。


 これからたくさんの検証をしていくのだから検体になってくれる家族への対応は必要になってくるからな。


 色っぽい魔女さんを見てニヤリと笑うと、理解したようでため息をついた。


 フフ。理解力が高くてなによりだ。

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