第1490話 特殊能力?

 ロンダリング──じゃなくてロンダルクとミラー……ジュ? ミラーダ? なんだっけ?


「ミラーニャです」


 そうそう、ロンダルクとミラーニャだ。まったく、覚え難い名前だよ。名前なんて一文字で充分だっつーの。


「その一文字すら忘れる人がなにを言ってるんだか。あと、ヴィベルファクフィニーに勝る名前はそうそうないですよ」


 幽霊の突っ込みなど右からあの世に流して笹流れ。レニスのところに向かいましょ~う。


「うん? レニス、どうした?」


 ブルー島の岬から浅草にいこうとしたらレニスがブルー島の道を歩いていた。赤ん坊を抱いて。


「あ」


 と言うと回れ右して下っていった。なんなんだ?


「逃げたのではありませんか?」


「逃げた? なんのためによ?」


 別にオレは取って食ったりしねーぞ。


 レニスには結界マークをつけているので見失うことはなし。あとを追っていると、なにかサイレンが鳴った。


「──べー様!」


 なんやろ? と思いながらレニスを追っていると、カイナーズの連中と思われる戦闘服を着たヤツらが走ってきた。


「どうしたい?」


「レニス様を見ませんでしたか?」


「なんかオレの顔を見るなり逃げたからあとを追ってるよ」


 あっちと指差す。


「いたぞ! ホワイト、ブラック、パープル、C−16だ! 囲め!」


 なんなんだとあっけに取られていると、下から戦闘服の集団が駆け上がってきた。ほんと、なんなのよ?


 戸惑うオレに情報をちょうだいな。


「べー様。申し訳ありません。ほんの少し目を離した隙にレニス様が逃げてしまい探しておりました」


 赤鬼さんがやってきて説明してくれた。どこのロリコン伯爵から逃げてきたんだよ?


 と言うか、カイナーズの連中から逃げれるレニスってなによ? 隠密スキルでも持ってんのか?


「確保ー!」


「レニス様を確保しましたー!」


 ありゃ。捕まったのかい。さすがに包囲されたら逃げられないか。


 レニスのところに向かうと、赤ん坊は取り上げられ、腰には紐が巻かれていた。


「なに悪さしたんだよ?」


 もう犯罪者の扱いになってるよ。


「いや、そろそろ冒険にいこうかなぁ~と思いまして……」


「よし。レニスを浅草に連行しろ。赤ん坊が三歳になるまで隔離する」


 カイナーズに命令する権限はないが、このアホな逃亡者に慈悲などくれてやる必要はねー。赤ん坊連れて冒険とか言語道断だわ!


「ハッ! レニス様を連行しろ!」


「……れ、連行って……」


 護送でもイイところを連行にしてもらったんだ、優しいカイナーズに感謝しろ。


「ってか、カイナはどうした?」


「南大陸でセーサラン探索に出ております」


 ひ孫が産まれたのに勤勉なことだ。まあ、オレが押しつけたようなもんだけど!


「セーサランは現れてんのか?」


「はい。X3が現れました。シープリット族と一緒に対応してます」


 X3か。結局どんな形かわからんかったな。


 岬から浅草へと入り、転移結界門の設定を変えた。


「もうこの転移結界門からレニスは出られねーようにしたが、一応見張りを立たせておけ。門の向こうにもな」


「はい。すぐに体制を整えます」


「しかし、よくバリッサナのほうから逃げなかったな?」


 逃げるならあちらのほうが手っ取り早いと思うんだが。


「二度逃げて二度捕まりました。あちらはレニス様の行動をよく熟知しておりますから」


「難攻不落か。どんなところだよ?」


 カイナーズのヤツらですら逃がすのに、二度も阻止するとかカイナの家族はバケモノか?


「そっちも一応、逃げられないようにしておくか」


 レニスたちが住んでいた団子屋に向かい、バリッサナに繋がる転移結界門の設定を変え、あちら側に潜ると、黒狼が寝そべっていた。


「お前、見張るならこっちで見張れ」


 と言ったら理解したのか、のっそり立ち上がってこちらにきた。


「──あら、また来たの?」


 伝えにいこうとしたらタイミングよくレニスの妹が入ってきた。


「いや、レニスが逃げたんでこの転移結界門の設定を変えて逃げれないようにしたと伝えたかったんだよ」


「また逃げたの、あのバカ姉は」


「あの包囲網からどうやったら逃げられるのか意味わからんよ」


「おねえちゃん、極度の方向音痴だから迷うと誰にも会わないって特殊能力が発動するのよ。わたしでも三回に一回は見過ごしちゃうわ」


 三回に二回は見つけられる妹も特殊能力持ちだと思う。


「赤ん坊が三歳になるまでレニスを浅草に監禁するが構わないか? そちらからは自由に出入りできるからよ」


「了解。お母さんたちにはそう伝えるわ」


「わたしの意見は!?」


「「ない」」


 ハイ、全会一致で可決されました。


「じゃあ、また」


「ええ。また」


 話のわかる妹でなによりだ。イイ友達になれそうな気がするぜ。


「ちょっと赤ん坊を抱かせてくれ」


 抱いていた赤鬼さんから赤ん坊を受け取った。


「ルヴィー。お前は母親のようになるなよ」


「いや、母親の前で言うセリフじゃないと思うんだけど」


「オレだけじゃなく周りも同じだと思うぞ」


 ここにいるカイナーズの連中が同意の頷きをした。お前、どんだけカイナーズに迷惑かけてんだよ?


「酷っ!」


 酷くはないとカイナーズの連中に代わって代弁をしてやった。

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