第1489話 ロンダルクとミラーニャ

 朝から双子の相手をしていた。


 まだ産まれて十日も過ぎてないからしわくちゃな顔をしているが、産まれたばかりの頃よりはしっかりしてきた感じだ。


「えーと、こいつの名前なんだっけ?」


 って尋ねたら親父殿に空ビンで殴られた。


「赤ん坊抱いてんだからあぶねーことすんなや! 落としたらどうすんだ!」


「お前は物で殴らんと響かんだろうが!」


 いや、殴らなくても響くよ! オレは丈夫ってだけなんだからよ!


「その子は、ロンダルクだよ」


「てことは男のほうか。まだ判別つかんな」


 まだ一卵性か二卵性かまではわからないが、顔での判別はまだできねー。髪も似た感じなんでな。


「ロンダルクって、ただのロンダルクなのか?」


 親父殿はザンバリットが正式でザンザリーは通り名的なもの。ロンダルクはどっちなんだ?


「ただのロンダルクだよ。ゼルフィングとは名乗っているが本家とはわかれている。貴族名をつける必要はないからな」


「親父殿の本家って貴族なんだっけ?」


 本家のことはそれほど深くは聞いてねー。冒険者になるために飛び出したって話だからな。


「ああ。伯爵の位を賜ってるよ」


「伯爵か。王様とか王弟に会ってると伯爵は色落ちするな」


 オレも人魚の国から伯爵の位もらってるし。あ、そういや紋章牙、どこに仕舞ったっけ?


「……村人が王や王弟に会えてる異常さに気がつけや……」


「あっちから会いにきてんだからしょうがねーだろう」


 オレから会いにいったことはねー。あ、人魚の王様には自ら会いにいったか。あ、今度いくときは焼酎持っててやらんと。王妃がいないときにな!


「本家に出産の報告とかはしたのか?」


「いや、していない。おれはもう本家とはかかわり合いはない。父も母も出奔した息子のことなど忘れているだろうからな」


「あーなんだっけ、親父殿の従妹、ルーとかサーとか言ったヤツ」


 なんか最近会った記憶はあるが、名前の記憶は微かにしかねーよ。


「アマリアだよ。どこにもルーもサーもねーよ」


 あ、ごっめ~ん。微かにも残ってませんでしたわ~。


「アマリアも出奔したのか?」


「あれは家出だ。結婚したくないってな」


「……もしかして、本家のご令嬢とかか……?」


 分家なら逃げるほどじゃねー。ご縁がなかったで済まされるはず。逃げるとなればそれなりの家柄ってことだ。


「ああ。ゼルフィング伯爵家の令嬢だ。侯爵家の息子との結婚が嫌でおれのところに逃げて来たんだよ」


「伯爵の令嬢は行動派が多いな。ってか、親父殿は行動派な伯爵令嬢と縁が多いな」


 オシャレリストでアイアンレディの……なんだっけ? 喉元までは出て来てんのになかなか出て来ねーよ。


「コーリン様だよ。忘れんな」


「あ! そうそう、コーリンだコーリン! コーまでは出てたんだよ!」


「微塵も出て来ねー顔して悩んでたぞ」


 そ、そんなことはないもん。喉元まではコーは出てたもん。


「で、本家はサマンサがいることは知ってんのか?」


「アマリアだよ! なんだよサマンサって? どこかで改変される要素があったんだよ!」


「アマリアもサマンサも似たような響きだろう」


「全然似てねーよ! お前との会話、疲れるわ……」


 ただ単に親父殿が突っ込み属性だからじゃね?


「あちらに知られて怒鳴り込まれるようなことにはするなよ。貴族のゴタゴタに双子を巻き込むんじゃねーぞ」


 どうでもイイヤツなら全力でぶっ潰すが、さすがに親父殿の親族をぶっ潰すのは気が引ける。上手く片付けろよな。


「わかってるよ。ロンダルクもミラーニャもおれが守るさ」


 すっかり父親の顔になっちゃってまー。変われば変わるものだよ。


「サプル。交換して」


 女のほうを抱くサプルに交換をお願いする。


「もー! あんちゃん交換しすぎ。ロンもミラも眠れないでしょ!」


「イイじゃんか。オレ、あんまり抱けてないんだからよ」


「それは家にいないからでしょう」


 なんだろう。サプルが口うるさいお姉さんになってます。あんちゃん、悲しいよ。


 でも交換してくれるからサプルは優しいお姉さんである。


「で、この子はなんて名前だっけ?」


 って尋ねたらまた空ビンで殴られた。


「殴らないと死ぬ病気かよ!」


「お前は名前を覚えられない病気だろうが! ミラーニャだよ!」


 ハイハイ、ミラーニャな。あーよしよし。


「どちらも大人しいな。サプルもトータも元気に暴れたもんだか」


 特にサプルは元気だった。いや、今もだけど。


「べーも元気に暴れていたよ。お乳をなかなか飲んでくれないし、おしめのときもじっとしてくれなかったしね」


 前世の記憶を持って産まれてみろ。自分で動けるまで悪夢でしかねーからよ。


 イカン。あの頃のことを思い出したら泣きたくなる。忘れろ、オレ。思い出さなければないも同じなんだからな。


「ミラーニャ。元気に育てよ~」


 できることならお淑やかに育てくれると助かります。戦闘機を乗りこなし、ドラゴンスレイヤーな妹にはならんでくれよ。


 兄からのせめてもの願いです。

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