第1472話 食堂で報告書を

 朝食をいただき、のんびり食休みしたあと館に向かった。


「おはようございます、べー様」


 転移結界門を潜ると、しわくちゃな村人スタイルの赤鬼じーさんが迎えてくれた。


「おはよーさん。初顔さんだな?」


 名前はたまに──。


「──いつもですね」


 名前を覚えるのはちょ~っとだけ苦手だが、顔を覚えるのはチョー得意。しわくちゃ赤鬼じーさんは初めてのはずだ。


「はい。今日からお仕事させていただいてます」


「そうかい。風邪引かないようにな」


 まだボブラ村は寒い。何時間いるか知らんが、年寄りにはまだ辛いだろうよ。


「ありがとうございます。温かいお茶を飲みながらやらせていただきます」


「それはなにより。オレも老後はお茶を飲んで過ごしたいもんだ」


 いや、今もそうだろうと言われたらその通りなんだが、まだ老後は経験したことねー。こう言う老後に憧れるものなんだよ。


「庭も華やかになってきたな」


 館は陽当たり山の中腹に建てられてるので広い庭ではないが、花壇ができたり庭木が植えられしている。ちょっとした貴族の別荘だな。


 庭師みたいな赤鬼じーさんもいるし、村人スタイルで館を警備しているボーイまでいる。いったいどこのマフィアのアジトだよって感じだな。


「おはようございます」


 館に入ると、執事さんとメイドのお出迎え。もう馴れたとは言え、無駄な出迎えだよな。あちらも仕事だから止めろとも言えんけど。


「おはよーさん。オカンは?」


「お子さまをあやしております。旦那様は牧場に出かけました」


 牧場か。そういやもう一年以上いってねーな。


「あんちゃん、おれ見てくる!」


「オラも!」


 うおっ!? お前らいたんかい!! 気がつかんかったわ!


「お前ら、ちゃんと手を洗ってから入れよ」


「わかったー!」


「わかっただ!」


 あまり多いと双子もびっくりするだろうから食堂に向かった。


 時刻は九時を過ぎているのでメイドたちはいなかったが、見習い魔女たちが全員──あれ? 何人預かったっけ? ひのふのみのふんふんっと十人か。きっと全員だ。


「無責任ですね」


 なにかあれば詰め腹は切るさ。そうじゃないのならオールオッケーよ。


「なにしてんだ?」


 見習い魔女たちはうんうん唸りながらテーブルに向かっているので、色っぽい魔女さんに尋ねた。


「報告書作成よ。あなたといると報告することが多いから。まあ、いなくても報告することがあるけどね」


 関わりのない見習いが何人かいるが、充実した留学生活をしててなによりだ。


「お、ララちゃんも帰ってたんだ」


 なら、アヤネも帰って来てるのかな? いきたくはねーが、借りた礼にはいかないとな。


「帰りたくはなかったけど、リンベルクに無理矢理連れて来られた」


 リンベルク? 誰や?


「あそこで睨んでいる人ですよ」


 あ、委員長さんのことね。了解了解。


「まあ、ガンバれや。まだ留学は始まったばっかりなんだからな」


 秋の終わりくらいからだから三ヶ月くらいか? いろいろありすぎて遠い昔のようだ。


「見習いさんたちも遠い目をしてますよ」


 きっと懐かしい日々をおもいだしているんだろう。老後、思い出せることがあってなによりだ。


「見習いたちの精神が持てばいいわね」


「色っぽい魔女さんたちは報告書はイイのかい?」


 優雅にお紅茶なんて飲んでますけど。


「もちろん、わたしたちも書かされているわ。今は徹夜明けで休んでいるのよ。館長は報告書を読むので五日くらい眠ってないらしいけど」


「イイ歳なのに元気なことだ」


 オレはそんな老後ゴメンだな。茶でも飲みながら村を眺めながら過ごしたいね。


「あ、そこなメイドさん。サプルは?」


「朝早くから帝国にいっております。カレット様たちとお菓子作りをするとおっしゃってました」


 うちの妹もワールドワイドになったものだ。去年までは村を出るのも渋っていたのにな。


「てか、カレットって?」


 ガレットなら知ってるんだがな。あ、そう言えばモンサンミッシェルのガレットクッキー、食いたくなった。カイナーズホームで売ってかな?


「あ、保存庫、空いてるかい?」


「少々お待ちください。調べて参ります」


 と言うので、報告書に苦しむ見習い魔女たちを眺めながらコーヒーをいただいた。


「悪い人ですね」


 ただ、若い人たちの苦労を労いの眼差しで見てるだけでしょうが。手伝ってやることはできねーんだからよ。 

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