新章

第1471話 朝

 グッドモーニングエブリバディ。


 オレは村人。十一歳。名前はヴィベルファクフィニー。言えるヤツが少ないからべーと呼ばれてます。オカンが再婚したことによりゼルフィングの姓がつきました。


「起きるなり誰への自己紹介ですか?」


 清々しい目覚めに突っ込んでくるのはレイコさん。オレに憑いている物知り幽霊さんだ。


 突っ込みがキツく夜にピカピカ光るのは困りものだが、知識量はかなりあるので、重い辞書を持ち歩くよりはマシと今でも背後に憑かせているのだ。


「……わたしの存在、辞書と同じですか……」


 話し相手になったり合いの手になったりするのも辞書にない機能で助かってるかな。あ、夜、トイレに起きたとき仄かに光ってくれるのは地味に助かってるよ。


「幽霊にも矜持ってもんがあるんですからトイレにいく灯りにしないでください」


 レイコさんの優れた機能を有効に使ってるだけなのに……。


「だから機能とか言わないでくださいよ」


 朝からうるさい幽霊だよ。


「おはようございます、マイロード」


 ベッドから起きると、幼女型メイドのドレミが現れた。


 ドレミはバンベルと言う万能スライムから分裂したスライムだ。基本、黒猫の状態でいるが、オレが寝るときはスライムになって枕になってくれるありがたい存在である。あーよしよし。


「ありがとうございます」


 基本、無表情なドレミだが、人型になったときは笑うようになった。きっと感情が生まれてきたのだろう。


 満足いくまでドレミの頭を撫でてやってから部屋を出た。


 オレが住んでいる家は離れだ。元はオトンが死んでからオレが建てたもので、地上二階、地下一階、部屋数は五つと、かなり広いものにした。


 今はこの離れに住んでいるのはオレと……誰だ? 妹のサプルも住んでいたはずだが、おそらく今は館のほうにいるんだろう。


 二階の自分の部屋から出て一階に下りると、離れを担当するメイド(日替わりで違う)が朝食を用意してくれていた。


「おはようございます、べー様」


 今日のメイドは犬耳の半獣人のようだ。


「おはよーさん。新入りかい?」


 犬耳の半獣人はこの国に多くいるが、メイドにいた記憶はねー。


「秋頃からいましたよ」


 テイクツー。秋頃からいた記憶があるが、離れにはいなかったはずだ。


「相変わらず堂々とウソがつけますね」


 清く正しく生きるって大変だよね。いつかウソをつかない大人になりたいものだぜ。


「ホー。いい朝」


 鳥籠から出てきたのは離れに住み着いた梟だ。二メートルくらいあるので邪魔臭い存在だが、なぜかメイドさんたちには大人気。休暇のメイドさんがエサやりに来るほどだ。


「ベー。久しぶりにバリエが食いたい」


「出されたもんを食いやがれ」


 ただ飯くらいのアホ鳥が。


「食べたい!」


 食ってるのはオレだ、アホ鳥が!


 クソ。なんでこいつはここに住み着いてんだよ。館のほうにいけよ。メイドさんたちに人気あんだからよ。


「ミミッチー。あとで出してあげるからベー様を吐き出しましょうね~」


 犬耳メイドさんに助けられた。


「焼き鳥にすんぞ、このアホ鳥が!」


「あ、焼き鳥食べたくなったホー」


 そのウソクセーホーを語尾につけんなや! 


「飼い主に似るですね」


「こんなアホ鳥飼ってねーよ! 押しつけられたんだよ!」


 あーもー本当、オレは最終処分場じゃねーんだよ。生ゴミ押しつけんな!


「あークソ。先に風呂入ってくるわ」


 モーニングなコーヒーを飲む前にべちゃべちゃにしやがって。今日は朝風呂って気分じゃねーのによ。


 それでも梟臭がするのは嫌なので風呂に入り、なんだかんだで長風呂コース。湯上がりのコーヒー牛乳が旨いでござる。


 すっきりした気分で居間に向かうと、弟のトータとカブ──じゃなくてガブだっけかがいた。お互い頭に花を咲かせてな。


 ……この姿で冒険に出て周りからなにも言われないんだろうか……?


「おう。まだいたんだな」


「うん。春まではいるつもり。弟と妹と過ごしたいし」


「オラんちも弟だったらよかったんだがな~」


 そう言えば、いたね。妹。名前はちょっと思い出せないけど。そのうち思い出すから気長に待ってくださんしぇ。


「おれはどっちでもいい。あんちゃんになれたし」


 一番下ってそう言うもんだよな。オレも前世じゃ男三兄弟の下。弟か妹が欲しかったものだ。


「そういや、チャコともう……一人? 一株か? 随分と静かだな。どうした?」


 枯れたわけでもなからろうし、冬眠か?


「花人族はたまに七日から十日くらい眠るんだって。詳しくは教えてくれなかったけど」


 人で言うところの月経か? 花人族だって子孫を残す生き物だ。子孫を残す機能が働いて眠りにつくんだろうよ。まあ、オレの勝手な想像だけどな。


「あんちゃん。カイナーズホームにいきたいんだけど、お金ちょうだい」


「お前がカイナーズホームにいくなんて珍しいな」


 一万円を渡した。細かいのがないんでな。


「お菓子とか買うんだ。孤児院の子を手懐けるのにイイかと思って」


 オレの教えを守って、新しい土地では孤児院を味方にしているようだ。


「小分けにできるものを買えよ。孤児院での不公平は問題を生むだけだからな」


「わかった」


「トータのあんちゃん、ドーナツ買っていいだか? オラ、ドーナツ好きだや!」


 リテンちゃんも買ってたが、カイナーズホームのドーナツ、結構人気なのか?


「好きに買え。足りなければオレの名を使え。百個でも二百個でも買えるからよ」


 トータならサプルのように空母を買ったりしねーだろうしな。


「わかった」


 素直な弟に頷き、朝食をいただいた。

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