第1470話 扉は開いてる

「殺戮技が一つ、フルボッコ!」


 で、リッチを泣かしてやった。


「まるで弱い者いじめね」


「悪意を持って向かってきた敵に容赦はしねー!」


 殺す意思で向かってきて、負けそうになったらごめんなさい? はっ! 殺られる覚悟もねークセに甘ったれたこと言ってんじゃねー。負けるのが嫌なら負けない状況を作り出すか、敵にしない状況を作り出せ、だ。


「ほら、どうした? そんな憎々しい目で人を殺せるほど世の中甘くねーぞ」


「いや、リッチの視線は即死するほどの力があるんですけど」


 残念ながら魔眼等の対策は完璧。そのていどでどうにかなると思うな。


 その横面に殺戮阿を食らわしてやる。


「痛いか? 痛いだろう? それが命の重みってヤツだよ」


 命の重みを知らんヤツにはたっぷりと教えてやらんとな。


「死なないってのはどんな気分だい? いや、死ねないか。なあ、教えてくれよ? 今どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち?」


「リッチに同情する日が来るとは思わなかったわ」


 そんな同情、命を軽んじたヤツにくれてやるのも惜しいわ。


「文句なら存在してる間に言ってくれよ。オレはあの世にいっても聞いてやる優しさはねーからよ」


「……た、助けて……」


 とうとう命乞いかよ。根性まで腐ってやがんな。


「そう言った者をお前は助けたことがあるのか? 見逃したことはあるのか? ねーよな? お前はそう言う者を無慈悲に殺してきたんだよ」


 まあ、別に見たわけじゃねーが、自分勝手なヤツの行動なんて大体同じだ。憎しみに捕らわれて、憎しみのままに行動し、自分は可哀想だと言い訳して他者の命を残酷に踏みにじる。


 それが人だ。否定する気はねー。だがな。その我が儘を通したいならそれなりの力がいるんだよ。強者になるにはそれなりの努力がいるんだよ。ただ世界を恨んでだけじゃその思いは叶えられねーんだよ。


「……い、いや……」


 這いつくばって逃げ出すリッチ。惨めなもんだ。


「リレーヌ。恨みがあんなら譲るぞ」


 おそらく何人ものハンターの命を奪ってることだろう。恨みがあるヤツがいたら譲るぜ。オレにその辺の拘りはねーからな。 


「そうね。ここはハンターの領域。ハンターが始末するのが筋よね」


 銃を構えるハンターたち。なので、場所を譲ってやった。


「いいんですか? このまま消滅させて」


「叶える手段を間違えたヤツの末路だ。恨み辛みを吐きながら消えていけ、だ」


 可哀想と思うならレイコさんが救ってやればイイさ。止めたりはしねーぜ。


「……そう、ですね。あのリッチに相応しい末路です……」


 思うところがあるんだろう。声が沈んでいた。


「マイロード」


「好きにしろ」


 大人バージョンになったドレミがオレになにかを訴えてきたので了承してやった。オレの関知することじゃねーからな。


 テーブルに戻り、冷たくなったコーヒーを飲み干した。


 リレーヌたちハンターはリッチを囲むと、聖弾を食らわした。


 何百発も撃ち込むと、リッチの体が崩壊していき、やがてなにも残らなくなった。


「よき来世を」


 神(?)からのこの言葉だけは今の脳裏から離れてくれねーな。


「ありがとう。犠牲者を出すことなくリッチを始末できたわ。これで大迷宮も落ち着くわ」


「落ち着いたら食い扶持がなくなるんじゃねーの?」


「大丈夫、って言うのも変だけど、大迷宮は調整力が働いてるのか、またしばらくしたら魔物は増えるのよ」


「それはまた迷惑なことだな」


「それがバリッサナの産業だからね。大迷宮が枯れるまで続くわ」


 枯れた先はそのときの者が考えろ、って感じだな。まあ、それもオレが口出すことじゃねーから黙ってるがよ。


「そんで。これにて終了かい?」


「ええ。リッチがいなくなれば骸骨兵もいなくなるしね。あとは、緊急召集したハンターたちの報酬を計算しないと」


 リレーヌたちからしたらそれが本当の戦いって感じだな。


「そうか。なら、レニスに挨拶したらうちに帰るとするか」


 双子を抱いてやりてーしな。


「残念ね。じーのこと聞きたかったんだけど」


「また来るさ。まだバリッサナを見尽くしてねーからな」


 大迷宮探索もやってみてーし、墓参りにまた来たいしよ。


「そっちも遊びに来たらイイ。扉はいつも開いているからよ」


 レニスの妹ならいつでも大歓迎さ。


「ええ。外国にいってみたかったし、そのときはよろしく」


「ああ。じゃあ、ここでお暇させてもらうよ」


 テーブル等を片付け、ハブルームに繋げる転移結界門を創り出し、ミナド大迷宮から脱出した。

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