第1465話 一生懸命

 なんだか辺りがうるさくなって目覚めた。なんなんだ?


「あ、やっと起きた」


 寝ぼけ眼で起き上がると、みっちょんが雲の上で横になっていた。あれ? スライム型のドレミの上に寝かせような記憶があるんだが、雲の上に寝かせたんだっけか?


「……オレはまだ眠ってんのか……?」


 頭がぼんやりしすぎてなにがなんだかわからねー。あれ? オレ、なにしてたんだっけ?


「べーくん、起きた?」


 ん? そばかすさん? 


「まだ起きてないみたい。コーヒーでも出してあげて」


「わかった。ハンターさんのところでもらってくるよ」


 なにがなんだかわからずにいると、そばかすさんがコーヒーを持ってきてくれた。


「苦いな」


 コーヒー大好きっ子なオレが苦いとか、どんな淹れ方してんだ? けどまあ、いっきに頭は目覚めたぜ。


「何時だ?」


「お昼前よ」


 なんだかんだで八時間は眠ってたか。それで寝ぼけるとか疲れてんのか、オレ?


「リレーヌは?」


「なんだか大森林に入る用意してたよ。防衛ラインを大迷宮まで移すとかなんとか言ってた」


「突入するんだ」


 大迷宮に押し返すのかな?


 大きく伸びをし、結界から出る。


 外はたくさんのハンターがいて、いろんな物資が山積みとなっていた。


「長いことこんなことやってんだな」


 どいつも悲壮な感じはなく、ボーナスタイムとばかりに張り切って働いている。スローライフとは無縁なところだな。


「べー様のところもスローライフにほど遠いかと思いますけど」


 周りがどうだろうとオレはスローライフを送っている。縁の中心にいるのだからスローライフど真ん中だい。


「まあ、たまには刺激が欲しくはなるけどな」


 血湧き肉踊るような刺激ではなく、感動や好奇心を揺さぶる刺激がたまに欲しくなるのだよ。


「ちょっといってみるか」


 ミドナ大迷宮とやらには興味がある。もしかすると箱庭の一つかもしれんからな。


「そばかすさん。ここにいな。さすがに連れていけんからな」


「いくよ。これでも大図書館の見習い魔女。戦う術は持っているわ」


 そう言うなら好きにしろと、肩を竦めて承諾した。よほどのことが起きん限り、オレの結界をどうこうできる存在はいねーしな。


「みっちょんはどうする?」


「もちろんいくわ。なんだかおもしろそうだし」


 雲から飛び出してオレの頭にパ○ルダーオン。まったく、ノリがイイメルヘンだよ。


「んじゃいくか」


「リレーヌさんに断らなくていいの?」


「忙しそうだし、事後承諾で構わんさ」


 なんかあれば合流できんだろう。オレの出会い運ならな。


 ハンターたちに咎められることなく前線から抜け、大森林へと入った。


「森自体は普通だな」


 禍々しいかと思ったら、これと言って変な感じはしない。至って普通の森だ。まあ、冬なせいか生き物の気配はまったく感じられないけど。


 これと言った問題もなく一時間が経過。七、八キロは歩いただろうか、朽ちた山小屋が現れた。


「朽ち方からして十年は経ってそうだな」


「なにか出そうだね」


「かなり前からオレの背後に出てるけどな」


 幽霊が日常になったせいか、朽ちた山小屋を見ても気味が悪いとも思わなくなったよ。


「あんな雑霊と一緒にしないでください」


 あ、いるんだ。


「幽霊にも存在感の薄いヤツはいるんだな」


 まあ、背後の幽霊のように存在感を出した幽霊ってのも嫌だけどよ。


「幽霊も一生懸命存在してるんですからね」


 知らねーよ。幽霊の一生懸命なんて。無駄な努力してねーで成仏しろや。


 朽ちた山小屋を結界で包み込み、雑霊とやらごと消滅させてやった。テメーらに存在権はねー。


「……ほんと、容赦がない人です……」


 天に召されぬ魂など知ったこっちゃねーよ。文句があるならオレが死ぬまで神んところで待ってろや。


 ふんと鼻を鳴らして先に進んだ。


 陽の光が届かぬ深い森になった頃、前方に巨大な門が現れた。


「ガン○ムでも発進できそうな門だな」


「ガ○ダムがなんなのか知りませんが、この大きさのがいるってことでことですよね」


「まあ、戦略ニートみてーのがいんだ、巨人がいたって驚きはねーよ」


 巨大ロボットが出てきたらさすがに絶句するが、ただデカいだけの存在などプリッつあんの力で小さくしてやるわ。


「あ、誰かいるよ」


 そばかすさんが指差す方向に六輪の装甲車が何台か止まっていた。


「大迷宮に潜るヤツかな?」


「そうかもしれませんね」


 しばらく眺めていると、ハンターたちが門を潜っていった。


「勇敢なヤツらだ」


 オレらも残ってくれるヤツらの仕事を邪魔しないよう門を潜った。

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