第1454話 カレー

「なんのための広場だ?」


 ハンターギルドに併設された広場で、広さはちょっとした体育館くらい。煉瓦が敷き詰められ、所々黒い煤の跡があった。


「なにか焚き火した跡だね」


「キャンプファイヤーでもやってんのか?」


 煤のサイズからしてそんな感じっぽいな。オクラホマミキサーでもやるんか?


 あ、そういや、高校生の文化祭ではマイムマイムやったっけな~。なんで外国(イスラエルだっけ?)の民謡フォークやねん、と思ってけど、あれはあれで楽しかったっけな。フフ。


「なんの思い出し笑いよ?」


「輝いていた時代の思い出の笑いだよ」


 今生も輝いた日々だが、あの頃の輝きとはまた違う。懐かしいと言う思いが、湧いて来るぜ。


「お待たせ」


 昔を懐かしんでいると、レニスの妹がおばちゃんを何人か連れてやって来た。


「あいよ。ところで、この広場はなんなんだ? 訓練する場所とも思えねーが」


「多目的広場だね。お祭りをしたり飲み場にしたりいろいろするよ。若い人の出会いの場になったりするね」


「カイナの発想か」


「うん。じーがビアガーデンが欲しいってのが始まりだって聞いてるよ」


「あいつらしいな」


 ビアガーデンを普通に広めてることもそうだが、やりたいからとなんの躊躇いもなく作る行動力は昔からだったんだな。


「じーのこと本当にわかってるんだね」


「わかってるのと理解できるのは違うがな」


 やりたいと思う気持ちは理解できる。が、やったらどうなるかを考えたらブレーキはかかるものだ。そこをアクセルベタ踏みで暴走する考えが理解できんよ。


「まあ、そうだね。わたしもおねえちゃんのことは理解できないわ」


「そうだな。あれはカイナによく似てるしな」


 そうレニスと関わったわけじゃねーが、フィーリングがカイナとよく似てるのだ。まあ、カイナほどはっちゃけてはいねーがな。


「あなたはじーと似てないけど、おばちゃんに似てる気がする」


 おばちゃん? ってことは、レニスの母親の母親ってことだよな? 確か、レニスが生まれる前には死んでなかったっけ?


「あ、おばちゃんの映像があるのよ。思い出だってじーが残したんだって」


 ま、まあ、前世のものを出せるんだからビデオカメラくらい出してても不思議じゃねーか。


「そうか。あ、墓参りしたかったんだった」


「おばちゃんの?」


「ああ。花でもと思ってな」


「それなら裏の山の頂上にあるよ。ただ、道らしい道はないから気をつけてね」


 誰にも来て欲しくないってことか。でも、カイナが許してくれてんなら問題ねーってことだな。


「あ、第一陣が来たよ」


「もうかよ。早いな」


「お祭りのときにやってるからね。慣れたものよ」


 バリッサナはオレの想像を超えた土地のようだ。


「テキトーなところに置いてくれて構わねーが、種類別に分けてくれると助かる」


 結界で台を創り、そこに食材を置いてもらった。


 慣れてるの言葉通り、オレらがあんなに苦労したのに、次から次へと運んできて、オレはそれらを次から次へと無限鞄に放り込んでいく。


「本当に仕事が早いな!」


 つーか、放り込むだけの簡単な仕事なのに、なぜオレが遅れている? いや、運んでくる人数、増えてね?


「あなたも早いじゃない」


「ただ手を止められねーだけだよ!」


 突っ込む時間も惜しいが、この忙しさに突っ込まずにはいられねーんだよ!


 それでも歯をくいしばって食材を無限鞄に放り込み、なんとか今日中には終わることができた。いや、もう真夜中だけどな!


「お疲れ様。食事、用意しておいたけど、食べる?」


 指示を出してたとは言え、夜中まで働いててまったく疲れをみせないレニスの妹。カイナに似てなくてもカイナの考えによってくるってことか。


「ああ、いただくよ。スゲー腹減ったわ」


 つーか、今日、大したもん食ってねーよな? フルーツ牛乳だけじゃね?


「カレーを作ったからいっぱい食べて」


「カレーか。カイナの作ったカレー、マジ旨かったっけ」


「わたしは食べたことないけど、お母さんの話ではじーが作るカレーは最強だって言ってたよ」


 あいつ、何気に料理上手なんだよな。宿屋で料理担当してたのは伊達じゃないってことか。


 釜戸で炊いた米に寸胴で作ったカレー。側には福神漬けとらっきょう、唐揚げやサラダまで用意してあった。


 自分でメシを皿に入れ、好きなだけカレーをかけ、らっきょうと唐揚げを盛った。


「イイ匂いだ」


 世界貿易ギルドを創設したときを思い出すぜ。


「いただきます」


 スプーンを取り、久しぶりのカレーをたらふくいただいた。あーウメー!

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