第1451話 抱っこ
泥のように眠り、体の重い目覚めをした。
「……ダル……」
疲れすぎて体が回復してきれてねーとか、体力だけじゃなく精神もまだまだだな、オレ。
しばらく上半身を起こしてボーっとしていると、下から赤ん坊──ルビーの鳴き声が聞こえてきた。
「……豪快に泣く子だ……」
赤ん坊の鳴き声を聞くと、人の営みを感じるから不思議だよな……。
やっと頭が目覚めて部屋を出て下に向かった。
メンバーチェンジしたようで、一階には見知らぬヤツらがいた。
「おはようございます、ベー様」
「あい、おはよーさん。レニスの調子はどうだい?」
「ルビー様の夜泣きでかなり参ってます」
初めての出産あるあるだ。
断りを入れて部屋に入ると、下半身蛇の女がルビーに乳を与えていた。ファンタジ~。
「レニス。乳は出てないのか?」
「うん、あんまり出ない。なんか体に異常があるのかな?」
「乳が出る出ないは個人差があるからな、気に病むことはねーさ。周りに頼ればイイ」
隣のおばちゃんの乳で育つなんて田舎じゃ珍しくもねー。頼り頼られが田舎だ。いや、ここは田舎じゃねーけどよ。
「母親と妹は?」
「一旦帰った。二人ともハンターギルドで重要な立場にいるからね」
母親はともかく妹まで重要な立場にいるんだ。
「レニスとルビーのカルテを見せてくれ」
白衣の蒼魔族の女にカルテ(日誌か?)を受け取り、眠ってからの様子を確認した。
レニスはともかくルビーはよく泣いて、よく乳を飲んでいるようだ。
オカンのところ同様、転生者って前兆は見て取れねー。よかったよかった。
まあ、転生者なら転生者でも構わねーが、前世の記憶なく、碌でもない能力を持って産まれるなど産みの親も産まれてくる子も不幸でしかねー。そんな考えにも至らなかった死ぬ前のオレを殴ってやりたいぜ。
「授乳が終わったらルビーを抱かせてくれ」
「はい。ルビー様。ゲップですよ」
背中をとんとんする……下半身蛇の女。ってか、この種族は哺乳類になるのか? なんなんだ?
なんて疑問は横においといて、満腹そうなルビーを受け取った。
赤ん坊特有の匂いがして、自然と笑みが漏れてしまう。
「ベー様、抱くのが上手ですね」
「まあ、下がいるからな」
サプルはそうではなかったが、トータはよく抱いたり背負ったりしていた。他にもドアラの弟だったりと面倒を見たこともある。乳児は久しぶりだが、抱き方は忘れてねーさ。
「ん? 眠ったか」
抱きクセがついてもなんだしと、ベビーベッドに寝かした。
「レニスも無茶せず周りに頼れよ」
「うん。そうする」
「父親に伝える気はねーのか?」
出産前だからあまり突っ込んだことは口にしなかったが、出産後は体調もイイので尋ねてみた。
「ルビーが会いたいならそのときでいいよ」
「生きてるんだな?」
「うん。生きてる」
それは、希望が混ざった肯定だった。なんかいろいろあったようだ。
「そっか。なら、立派に育ったルビーを見せてやらんとな」
「わたしの娘が立派に育つ未来が見えないなー。わたし以上に破天荒に育ちそう」
「妹は真面目に育ってるっぽいし、希望はあるさ」
まさにレイトゥール。名に願いを託そうじゃないか。
「また落ち着いたら来るよ」
「うん。またね」
そう告げて部屋を出た。
「カイナは?」
外にいた軽武装した赤鬼レディに尋ねた。
「本部にいっております」
本部ってどこだよ? と思ったけど、それほど知りたいわけでもねーので軽く流しておく。
「じゃあ、帰ると伝えておいてくれ。あ、この近くに銭湯とかあったっけ?」
浅草を模しているなら銭湯くらいあるはずだ。
「はい。店の裏から出て右にいけば銭湯の煙突が見えます」
やはりここ、店だったんだ。つーか、店主誰だよ?
「魔女さんたちも銭湯いくか?」
メガネ女子も復活していて、店内でなんか書き物をしていた。
「わたしたちは昨日入ったからいいわ」
「そうか。銭湯から上がったら館に戻るから」
双子も抱っこしたいしな。身綺麗にしてから帰るとしよう。
店の裏から出ると、確かにそれっぽい煙突が見えた。
「つーか、魔族とか銭湯にいくのか?」
なんてことを考えながら銭湯に向けて歩き出した。
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