第1450話 花となれ、希望となれ

「そんなことより、赤ん坊の名前はどうするんだ?」


 魔女の前で深い話もできんので、無理矢理話題を変えた。


「うーん。それなんだけど、ベーがつけてくんない?」


「なんでだよ。レニスなら親なりつけてやればイイだろう」


 レニスを家族とは思っているが、それは守る対象としての話だ。肉親での話まで首を突っ込むつもりはねーよ。


「それなんだけど、レニスはなにも考えてないし、親はレニスにつけさせようとしてるし、おれは壊滅的にネーミングセンスがない。だからベーにまるっとお任せしたほうが丸く収まるんだよ」


「赤ん坊の名前を丸投げすんなや」


 丸投げ常習犯なオレでも重要なことは自分の決断と責任で実行するぞ。


「重要だからベーにお願いしてるんだよ。レニスに無理強いするとなんか変な名前をつけちゃうかもだし」


 あの性格ならありえる、と思わないではねーな。


「じゃあ、女だし、ルヴィレイトゥールと名づけとけ。愛称はルビーかレイだな」


「ルヴィレイトゥール? またながったらしくて言い難いね。すっと出たってことは前から考えてたの?」


「オレじゃなくオトンだよ。いろいろ考えて書き示していた中の一つだ」


 いろいろ書いてあったが、そらで覚えているのはルヴィレイトゥールって名前だけだ。


「なんか意味あるの?」


「確か、花となれ、希望となれ、だったっけかな?」


 ルヴィが花でレイが希望。トゥールが咲くとかなるとかの意味だったはず。だったらルヴィトゥールレイトゥールになんじゃね? と思ったが、それはオトンが死んだあとだから謎のままさ。


「花となれ、希望となれ、か。ベーのお父さん、詩人だね」


「子としては迷惑なだけさ。誰も覚えられねー名前なんだからよ」


 サプルもトータもちゃんと自分の名前が言えるかも怪しいぞ。


「うん。ルヴィレイトゥールで、愛称はルビー。それに決定!」


「お前がそれでイイならオレは構わんよ」


 ルヴィレイトゥールが日の目を見てなにより。オトンも浮かばれるだろうよ。


「ついでに、ゼルフィングの名もつけておけ。うちで庇護しておくからよ。カイナーズで面倒見るならカイナーズと名をつけてもイイがよ」


 ってか、カイナーズって団体名だったっけ? 


「ううん。ゼルフィング家で面倒見てくれると助かる。オレの後継者とか思われるのも面倒だしね」


「魔王にはしたくないか?」


「カイナーズはオレが趣味で組織したものだからね。レニスやルビーに継がせるつもりはないだけさ」


 趣味でした組織も今や最強国家にも勝る武力集団。何万もの荒くれ者を束ねるカイナは絶対的存在。その孫やひ孫にカイナの影を重ねるのも仕方がないこと。ゼルフィング家の庇護としておけば多少なりとも魔族たちの見方も和らげれるはずだ。


「お前もメンドクセーのを配下にしたな」


「面倒なのはベーに放り投げてるけどね」


 うん、知ってた。だから、方向性を持たせて返してやるがな。


「セーサランはカイナーズで当たれよな」


 この世界でセーサランを相手できるのはカイナーズだけ。何千年と生存競争に勝った魔族に矢面に立ってもらう。参加しない国にはそれ相応の見返りはいただくがな。


「さすがに疲れたからオレは休ませてもらうよ」


「うん。二階を使って。布団は敷いてあるみたいだからさ」


「あいよ」


 メガネ女子の首根っこをつかむ。


「そばかすさん。あとは頼むわ」


 そう言って二階へと上がり、空いてる部屋にメガネ女子を放り込み、オレは別の部屋で休むことにした。


 布団に倒れ込み、深いため息を吐いた。


「ご苦労様」


 と、プリッつあんが目の前に現れた。おんどれ、いたんかい!?


「いや、最初からいたし。邪魔しないよう箪笥の中から出産を見守ってたのよ」


 箪笥? 確かに昭和感漂う茶箪笥があったな。あそこにいたのかよ。


「初めて人の出産を見たけど、不思議なものよね」


 まあ、妖精は生殖行為はしないみたいだからな。


「わたし、ママさんとパパさんの子どもを見てくるわね」


 好きにしてちょうだい。オレは眠らせてもらうからよ。


 意識がスッと消え、泥のように眠りについた。

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