第1449話 すべては豊かに生きるため
「べー。ありがとね」
コーヒーカップを持ちながらぼんやりしてたらカイナがやって来た。
「……それはお前の部下に言ってやんな。オレにはイイよ。ほぼ、お前の部下とメガネ女子の手柄だからよ……」
オレも交代で入ったが、蒼魔族のヤツが取り上げた。オレはレニスの体調を気にしていただけだ。
……ちなみにメガネ女子は横で倒れてます……。
「関わった者には特別ボーナスを出すよ。あと、カイナーズで働く者にはカイナーズホーム全品五十パーセントオフにするかな? 出産バーゲンだね」
なんだよ、出産バーゲンって? 激安王もびっくりなカイナーズホームで半値にしたって微々たるもんだろう。いや、大きいか? まあ、なんでもイイわ。好きにやれ、だ。
「まあ、べーがいてくれたから皆も安心できて取りかかれたんだから感謝させてよ」
「んじゃ、素直にもらっておくよ」
「うん。もらっておいてよ」
と、なぜか胡麻団子を出された。なんでやねん? でも、腹が減ったからいただきます。あーうめー。
「でも、よくわかったよ。べーが女性にがっつかない理由」
「はあ? なんだいいきなり?」
なんか聞き逃したか?
「これまで美女美少女が現れてもベーがなびくことは一度もないし、線引きが壁のように厚かった。なんでかわからなかったけど、出産を何度も立ち合ってたからなんだね」
別に出産を立ち合ったから、ではねーと思うが、少なからず価値観は変わったかもな。女はスゲーってな。
「でも、よく立ち合えるよね。こう言ってはなんだけど、男から見たら出産ってかなりグロいよね」
「確かに男から見たらそうかもな」
立ち合った男が失神した、なんて話、聞いたことがあるしな。
「魔物の解体やらの解剖やらやってたら出産なんて可愛いもんだよ」
「ベーって、サイコパス?」
「サイコパスはお前らだよ」
異世界にホームセンターを創るは、BLやら広めるやら、そんなアホどもにサイコパス扱いされたくねーわ!
「オレは浅く広くやってるんだよ」
「それも謎なんだよね。ベーは器用だし、大抵のことはできる。知識も並み以上。いや、かなり賢い。一つを極めたら第一人者にだってなれるのに」
「確かに器用かもな。だが、オレは凡人だ。なにか飛び抜けた才能なんてありゃしねーし、覚えるのだって人並みだ。たった一つの才能を持つ者には逆立ちしたって勝てねーんだよ」
三つの能力だって十全には使いこなしてねー。エリナやカイナならもっと奇想天外な発想を見せるだろうよ。
「その悪知恵は天下無双だと思うよ」
「オレの知恵なんて児戯に等しいもんだよ。でもまあ、考えを止めたらそこで試合終了。大切なものを失わないためには考え続けるしかねーんだよ」
頭が悪かろうが考えることはできる。悪いと思うのは集中力がねーか、諦めが早いかだ。
「お前ならわかるだろう。暮らしをどこまでよくしたら暮らしやすくなり、大切な人を守るためにどこまで高めたらイイかをな」
これは前世の記憶がなければわかりようもなければ説明もできねー。
「わかるけど、普通は諦めるよ。おれだってベーが下地を敷いててくれたからできたようなもんだし。ってか、村人でやろうってのが意味がわからない。暮らしをよくするなら権力を持つしかない。手っ取り早くするなら貴族を目指すもんだよ」
「お前は目指したいか?」
せっかく神からもらった能力があるってのによ。
「オレから言わせたら貴族を目指すなどアホの所業だ。自ら苦労の道を選んでどうする? 一番賢いのは責任は低く、仕事は他人任せ。おもしろおかしく生きる道を目指すのが賢い生き方だろうが」
まあ、人それぞれ。生き方もそれぞれ。好きな道を目指せ、だ。
「よほどの力と知恵がないとできないよ、それ」
「できないのならできるヤツを見つけたらイイ。やりたいヤツにやらせたらイイ。地位も名誉もくれてやるさ。オレにはそんなもの不要。重荷でしかねーんだからな」
別に贅沢三昧酒池肉林を求めてるわけじゃねー。自由気ままに、悠々自適に、おもしろおかしく、前世より豊かに生きれたらイイんだからな。
「オレは不老不死じゃねーが、おそらく長生きはする。なら、最悪を見逃す間抜けにはならず、取り返しのつける段階で物事を見抜ける目は持っておく。それには、大抵のことならできるていどまでにはならないとダメだ。そして、自分で対処できねーなら集めた専門家に任せろ、だ」
そのためには国がいる。
本当ならアーベリアン王国で済ませることが、エリナが現れ、タケルが現れ、カイナが現れと、一国を壊しかねない
「お前があとどのくらい生きるか知らんが、後継者や切り換えられる仕組みは今からちゃんと用意しておけよ。まあ、お前がずっと頭を張っていたいなら構わんがな」
老後は庭先で村を眺めなから本を読んだり、チェスをしたりして暮らしたい。なら、オレの老後を健やかにするために生け贄──ではなく、人材を育てておきましょう、だ。
静かにオレたちの話を聞いている魔女もそうだ。一大勢力となって帝国の重石となってもらい、オレのお願いを聞いてもらいましょう、だ。
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