第1448話 あの親にしてこの子あり
オレが来てから八時間ちょい。元気な女の子が産まれた。
初産にしては順調と言ってイイだろう。よかったよかった。
「赤ん坊を頼む」
助手としていた蒼魔族の女に任せ、レニスを診る。
「なんと言うか、お前の体、おかしくね?」
疲労はしている。たが、目に見えて回復していっている。治癒能力が尋常じゃないぞ。
「……たぶん、じーの加護だと思う。前も足の骨を折ったとき、二日で完治したから……」
あのバカが原因か。あいつ、いったいいくつの能力を持ってんだ?
高校生と魔王の魂を交換してこの世界に来たらしいが、能力は魂ではなく体に宿っているってことか。カイナだからイイものの、性格のワリーヤツだったらこの世界終わってたぞ。
「お腹空いた」
出産後に聞く言葉じゃねーな。まあ、レニスらしいけどよ。
「レニスシェーン様。お子様です」
体を洗われ、おくるみに巻かれた赤ん坊が連れてこられた。
「泣かないね」
「産まれたときは泣いてたから大丈夫だよ。抱いてやれ」
「うん」
おっかなびっくり赤ん坊を抱くレニス。まだ十七歳なのに母親の顔をする。
「べー様。カイナ様の我慢が限界のようです」
青い皮膚を持つ蒼魔族が青くなっている。わかるようになったオレも成長したものだ。
「いれてイイよ」
母子ともに健康だし、あのバカの魔力は人を殺せる。出産後に大量殺戮されたら困るしな。
「レニス!」
一応、暴走したときように結界を張ったが、自制心はあったようで、ゆっくりと上がって来た。
「おー! レニスにそっくりだ!」
いや、まだわかんねーよ。どんだけひ孫バカだよ。
「ありがとうね」
レニスの母親は冷静で、部屋から出て来たオレに礼を言ってくれた。
「礼はイイよ。ほぼレニスの力だしな」
「それでもお礼は言わせて。あなたがいてくれたからとうさんも落ち着いていられてたしね」
「あれが落ち着いてたんだ」
「ふふ。レニスやシャルルのときは気絶者続出してたからね」
「……強いってのも不便なものだな……」
カイナも魔力を抑えているだろうが、元々が規格外。抑えたところで人外級。並みのヤツには害悪でしかねー。
「あなたはなんともないのね?」
「まあ、最初はびっくりしたが、今はもう慣れたよ」
オレの結界をあっさり破壊したときは全身から血が引いたが、今は圧を感じるていど。気にもならなくなったよ。
「そう。とうさんが帰って来ないのも納得したわ。あなたの側ならとうさんは幸せね」
「気持ちワリーこと言うな。あのバカはどこでだってバカやる男だろうが」
なに嫁に出すみたいな雰囲気で語ってんだよ。あのバカはバカをするのに場所なんて選ばねーよ。
「ふふ。とうさんを理解してくれる人がいてよかったわ」
「あのバカを理解できるヤツはいねーよ」
異世界に採算度外視のホームセンターを創ったり、元の世界の軍隊を創るとか、あれを理解できるヤツがいたら会ってみてーよ。
「あんたも孫を抱いてやりな。ってか、ダンナはいねーのかい?」
ダンナとはレニスの母親のダンナことな。バリッサナにいってからまったく見てねーけどよ。
「ああ、ダンナなら隔離しているよ。バカ娘がどこの誰ともわからない子を宿して帰って来たからね」
まあ、父親としては激怒ものだわな。
「母親のあんたは怒らんのかい?」
「そりゃ産まれたらビンタの一発でも食らわしてやるよ。でもまあ、あの子が体を許したんだから男としてはまっとうだったんだろう。でなきゃ、産むなんて言わないだろうからね」
さすが母親。娘をよくわかっている。
「だからカイナも激怒してなかったのか」
カイナとこの母親は血が繋がってねー。だけど、親子だと思わせるところがあった。あの親にしてこの子ありだ。
「本当にとうさんを理解してくれるんだね」
「それはカイナを支えてくれた人のお陰だろう。でなければカイナは人の中で生きてねーだろうからな」
強大な力は孤独を生むものだ。それがないと言うなら愛情をもって受け入れてくれた人がいたってことだ。人と関わりを持とうとする人がな。
「墓の場所、教えてくれるかい? 花の一つでも捧げたいからよ」
義兄弟として、いつか墓にいってみたかった。あのバカが愛した人の墓にな。
「……とうさん、そこまで話してるのね……」
「お互いの好きな人がバレてる仲だからな」
はっきりと言ってねーが、カイナにはバレてるだろう。グレン婆とのことをな。
「あなたの好きな人ね。会ってみたいものだわ」
「残念ながら会えることはねーな。もう振り切れてるしな」
前世の記憶はあるが、もう振り切れた。今生のオレは前世のオレではねー。オレはヴィベルファクフィニー。この体で新たな人生を送るのだ。
「そう。あなたも見た目通りじゃないってことね」
カイナの娘なら真実を知らなくても察しているところはあるだろう。見た目とは違う心の内をな。
「見た目通り、クソ生意気なガキだよ」
肩を竦めてみせた。内緒だぜってな。
「クソ生意気なガキね。なら、もっと無知を装わないとわかる人にはわかっちゃうわよ」
それはもう諦めている。そんなヤツらにウソは通じんだろうし、察しても口にしない配慮は持ち合わせているからな。
「ご忠告ありがとよ。さあ、孫を抱いてやんな」
オレはコーヒーを飲んで一服させてもらうからよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます