第1447話 叫び方!

 ハブルームでは魔女たちがサバトをしていた。


 どこでなにをやろうとオレには関係ねーが、なぜ人の通りがあるところでやるんだろうな? サバトってコソコソやるもんじゃねーのか?


 まあ、下手に関わると厄介そうなので声はかけず、浅草へ通じるドアノブに手をかけた。


「ロミナ、ライラ、いけ」


「「はい!」」


 叡知の魔女さんの声にメガネ女子とそばかすさんがオレのあとに続いて浅草へとついて来た。


「下っ端は大変だな」


「館長と対等にいられるべーくんが非常識なんだからね」


「この国には叡知の魔女さんみたいなのが多いからな」


 叡知の魔女さんは、ご隠居さんや暴虐さんより下でバカ野郎六人組よりは上って感じだ。


 人外では可もなく不可もなく。俗世にいるだけに他の人外より扱いやすい相手だ。


「浅草は常に朝なんだな」


 夜、ちゃんと眠れてんのかね?


 レニスがいる団子屋(かどうかは知らんけど)に来ると、白い服を着たカイナーズの医療チームで溢れていた。


 オレも人のこと言えんが、カイナも相当心配性だよな。こんなに集めてどうしようってんだよ?


「べー様が参りました」


 と、医療チームの一人がオレに気づいて声を上げると、左右に分かれて道を作ってくれた。


 ……なんの花道だよ……。


 そのまま回れ右もできんので、団子屋へと向かった。


 中にはレニスの妹、だっけか? 拳銃を分解して掃除していた。


「お前のところは銃を掃除するのが精神統一のやり方なか?」


 妹の横でカイナも拳銃を分解して掃除している。似た者家族か。


「まあ、そうだね。無心になれる」


 人んちの事情。好きにしろだが、それをうちには持ち込まないでくれよ。お前んとこの影響力、ハンパねーんだからよ。


「レニスは?」


「うんうん唸ってる」


「お前、出産に立ち会ったことねーのか?」


 話からレニスと妹が産まれたときはバリッサナにいたよな?


「部屋の外で銃を掃除して待ってた」


 うん。お前、役立たず決定。


「べーだ。レニスの様子はどうだ?」


 昭和の日本家屋。障子か襖で仕切っているので中の声は筒抜け。中にいるだろう連中に声をかけた。


 障子戸が開き、レニスの母親が現れた。


「入って」


 と、腕をつかまれて中へと引き入れられてしまった。


 部屋の中にはうんうん唸っているレニス。カイナーズの医者だろう蒼魔族の女が二人。看護師が数人。あと、ココノ屋のタヌキばーさんがいた。いやなんで?


「人の取り上げるヤツはいねーのかよ?」


「あなたが取り上げてくれるのでしょう?」


 はぁ? オレは薬師であって取り上げ助産師じゃねーぞ。


「ったく、カイナのアホが。なんの準備もしてねーのかよ。二人。取り上げことあるか?」


 蒼魔族を見て問うた。


「はい。同族なら……」


「なら、人も蒼魔族も同じだ。メガネ女子。オカンのとき見てただろう。二人を支えてやれ」


「わ、わたしですか!?」


 驚くメガネ女子。なんのために立ち会わせたと思ってんだよ。学ばせるためだろうが。


「出産経験者と初めての出産は違うものだ。しっかり学べ。最悪のときはオレが受け持つからよ」


「あなたがやったほうが確実でしょう。バイオレッタ様から何度も取り上げたと聞いたわよ」


 村で取り上げられるのはオババと年配のばーさんが数人。あの村の規模なら充実してると言えるほどで、周囲の小さな村には取り上げ婆すらいないこともある。


 そのとき、薬師たるオレが呼ばれたりするとこがあるのだ。


 年齢一桁によくさせるな、とは思うが、七歳の頃にはもう周囲の村にはオレの名前が知られており、安く請け負っていたから貧しいヤツは頼んでくるのだ。


「魔女も取り上げられる経験と知識を持っておけ。貴族から相談とかされんだろう。知識を溜め込む以上に知識を高めていけ」


 それは回り回ってこちらにやって来る。魔女よ、探究せよ、だ。


「ほれ、着替えるぞ」


 奥を貸してもらい、白衣に着替える。出産に立ち会うからには清潔にしないとな。


「基本はカイナーズが仕切れ。メガネ女子は補佐。準備はできてるな?」


「は、はい。万全です」


 やはり経験者は頼りになるもんだ。


「うー! 出そう!」


 便秘じゃねーんだから出そうはねーだろう。


「じゃあ、元気な赤ん坊を取り上げるぞ!」


 オレはレニスの頭側に座り、最悪に備えて準備を始めた。

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