第1446話 今度はレニス

 ぐっすり睡眠。快適起床。ブルー島は黄昏時でした~。


「お前はいったいどこを飛んでんだ?」


 空鯨は回遊する習性があるから常に飛んでいるものだが、箱庭に何千年といたのに本能は失われてないとか、ファンタジーのDNAはどうなってんだろうな?


「べー様。朝食はいかがなさいますか?」


 今日のクルフ族のメイドで、南の大陸から帰って来たときのメイドだ。一応、離れにいるメイドは決まってる感じだな。


「館でいただくよ。ワリーな」


「いえ、大丈夫ですよ。べー様が食べないときはわたしたちメイドがいただきますので」


 それは無駄にしなくてなによりだ。


 殺戮阿を出して軽く素振り。右振り左振りで五十回ずつやってから下までランニング。また上がって来る。


「……やっぱ鈍ってんな、オレ……」


 南の大陸で結構歩いたと思ったが、歩いただけじゃ体力は向上しないんだな。これじゃ東京タワーも制覇できんな。


 ゼーゼーと息切れが苦しい。もしかしてオレ、前世より体力ねーんじゃね? 


「クソ。五、六キロ走っても大した息切れもしなかったのによ」


 弱肉強食な異世界で生きてんのに、なぜ平和なときのほうが体力あるんだよ。いろいろ間違ってるだろう。


「この体のほうが性能イイと思うんだがな」


 最近、土魔法や結界ばかり使ってたからか? まったく、能力を高めようとしたら体力が落ちるとか、そこにも神(?)の介入が入ってんのか? 勘弁してくれよな……。


「ハァー。バランスよく鍛えねーとダメか」


 息を整えてから離れの風呂へと向かった。


 さっぱりとして風呂から上がり、謎の梟の謎踊りを眺めながら湯涼み。なんだかまた眠くなってきたぜ。


「メイドさん。アイスコーヒー頼むわ」


 館ほど充実してないのでメイドに飲み物をお願いした。


「はぁ~い」


 と、先を読んでいたかのようすぐにアイスコーヒーを持ってきてくれた。あんがとさん。


 アイスコーヒーを飲んでいると、館からの転移結界門からメイドが出てきた。


「夜勤のメイドか?」


 前もこの光景見たな。つーか、前よりメイドが増えてね? うち、どんだけ仕事──あ、いや、なんでもありません。働いてくださるメイドさんたちにご苦労さまの敬礼を。


「皆さん、戸惑ってますよ」


 あ、レイコさん、いたのね。すっかり忘れてましたわ~。


「邪魔しないように静かにしてただけです。お風呂にも入ってましたしね」


 気遣いのできる幽霊ステキ!


「夜勤が終わったってことはあちらは朝だな」


 夜勤が何時から何時までかは忘れたが、昨日の夜九時にはベッドに入り、ぐっすり眠った。いつもなら七時間は眠るのだからランニングと風呂の時間を足せば朝の五時半くらいだろう。


 おそらくサプルが起きる時間に合わせて勤務時間が決められているはず。そろそろ館にいっても大丈夫だろう。いや、食堂は二十四時間体制だからいついっても問題はねーんだがな。


 アイスコーヒーをお代わりして飲み干してから館へと向かった。


「お、雪か」


 深々と降り、うっすらと積もっている。珍しいこと。


「おはようございます、べー様」


 雪かき──いや、雪払いをしていた赤鬼のじーさんに挨拶された。


「おはよーさん。お仕事ご苦労さんな」


 大半を魔大陸で暮らして雪なんて見たことねーだろうに、この寒さにめげずよくやるよ。


「風邪引かないようにな」


「はい。ありがとうございます」


 館の玄関前にも赤鬼のじーさんがいて雪払いをしている。うち、いろんなの雇ってんだな。


「他人事ですね」


 他人事とは思わねーが、まあ、人任せにしてるんだから反論もできねーな。


「おはようごさいます、べー様」


「あい、おはよーさん。風邪引かないようにな」


 挨拶を返しながら館へと入った。


「おはようごさいます、べー様」


 この執事さん、転移魔法でも使えるんだろうか? いつもオレを迎えるよな。別に自分の仕事に集中してくれてもイイのによ。


「おう、おはよーさん。オカンの様子はどうだい?」


「寝室で問題なく過ごしておられます。旦那様もご一緒です」


「魔女さんたちは?」


 なぜかブルー島について来なかったのだ。まあ、どうでもイイから追及はしなかったがな。


「ハブルームに集まってなにか話し合っていると報告が上がっております」


 またサバトか? 魔女のやることはよーわからんな。


「あちらもべー様のことよくわかってないと思いますよ」


 そんな突っ込みなんていらねーんだよ。


「親父殿は寝室で朝食を摂るのか?」


「はい。寝室で摂るとおっしゃられておりました」


「じゃあ、先に朝食を食うか。用意を頼むよ」


 親父殿が来ねーなら各自でいただくことにしよう。


「あ、あんちゃん、おはよー」


 と、頭に花を咲かせたトータが二階から降りて来た。


「お前、どこに泊まったんだ?」


「自分の部屋だけど?」


 あ、うん、そうだった。トータの部屋もあったっけな。オレ以上にうちにいねーから忘れてたわ。


「赤ちゃん見にいっても大丈夫かな?」


「大丈夫だろう。執事さん、頼むわ」


「畏まりました」


 トータと分かれて食堂に向かうと、軍服姿の青鬼のねーちゃんがいた。


 ……この青鬼ねーちゃん、どこかで見たな……?


「タエコさんですよ。南の大陸にもついて来た方です」


 あ、あの青鬼っ娘さんか。


「べー様、おはようございます。カイナ様より伝言です。レニス様が陣痛が始まったのことです」


 あ、レニスな。忘れてたわ。


「わかった。今からいくよ」


 回れ右してハブルームへと向かった。

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