第1443話 鰻登り

 来客を迎えながらチャンターさんやアダガさんから近況を聞いた。


 チャンターさんは、兄貴から借りた船をオレが払った代金(確か、金の延べ棒五本だったっけ?)でなしにしてもらい、オレの依頼で儲けた金で飛空船を一隻買ったそうだ。


 今は東の大陸風にしてもらうために博士ドクターに改造してもらってるそうだ。


「ここからはなにを持ってこうとしてんだい?」


「ブララと葡萄酒、海竜の皮、鱗、織物、あ、ハイニフィニー王国王弟、カルフェリオン・アニバリ様と伝手が欲しいんだが、頼めるか? 石炭が欲しいんだ」


 ハイニフィニー王国とは懐かしい。広場で王弟さんと出会ってもう一年になるか。また今年来るそうだし、会えたらイイな。


「じゃあ、手紙を書くからいってみるとイイ。ゼルフィング商会の飛空船を使ってイイからよ」


「頼んでおいてなんだが、旨いところはゼルフィング商会のに持っていかれそうだな」


「ゼルフィング商会にそこまで余裕はねーよ。これ以上、仕事を増やしたら婦人に怒られるわ」


 あの静かに怒るの、本当に怖い。まだヒステリックに怒鳴られたほうが楽だわ。


「あ、いくんなら魚を持っていくと喜ばれんじゃねーか? ハイニフィニー王国は山国だからな」


「べーはいったことあるのか?」


「いったことはねーな。ただ、ハイニフィニー王国にいっている隊商と知り合いだから話はいろいろ聞いてるよ。あの国はキノコが豊かで、干したマロエは篭一杯で金貨三枚の価値があるそうだ」


 大都市に回るのでオレは買ったことはねーが、聞いた限りではグアニル酸が豊富なんだろう。


 まあ、うちは海からはグルタミン酸。山からはイノシン酸の食材が豊富なので大金出してまで買おうとは思わねーけどな。


「マロエで出汁を取った鍋は最高らしい。それなら東の大陸でも人気が出ると思うぜ」


 東の大陸のヤツらの舌など知らんが、チャンターさんを見てる限り、気に入られるはずだ。出汁文化みたいだしな。


「……お前の知識量、どんだけだよ……」


「隊商としゃべってれば自然と入る情報だよ」


 酒が入ればあっさりとしゃべってくれる。チョロイものである。


「怖いヤツだよ」


「知る人ぞ知る商人を目指すなら怖いと言う前におもしろがれ、未来の大商人」


 チャンターさんには東大陸を仕切れるくらいの大商人になってもらわなくちゃオレが困る。デカい伝手になれるように、な。


「お前と話す度にアバールの偉大さを痛感させられるよ」


「そうですね。べー様やシャニラ様の側にいて腐ることなく渡り合えているのですから」


 だからなぜオレが貶められると周りの株が上がる? 誰かオレを褒めてくれ! ってことはどうでもイイか。別に褒められたくてやってるわけじゃねーしな。


 無限鞄から手紙セットを取り出し、王弟さんへの手紙を書いた。


「カルファン商会ってのは?」


「王弟さんが親しくしている商会だ。ここに来たのもその商会を使ってのことらしい。だから、オレの名前を出してその手紙を王弟さんに届けてもらえばイイさ」


 あちらもオレとの繋ぎが欲しいのだろう。カルファン商会のことを詳しく話していたっけ。


「そこでカルファン商会とよしみを結んでおけ。おそらく石炭輸送は莫大な金を生む。可能なら王弟さんとも会ってその辺を詰めてこい。あと、広場に支店でも建てておけ。ねーとあんちゃんに頼るようになるぞ」


「……凄い大事になりそうだな……」


「石炭の量でそうなるな。アダガさんも人足の用意をしておけよ。石炭を船で運ぶとしたら人手はいる。それもあんちゃんの仕事になるぞ」


 行商をやってただけに人脈は持っている。知り合いの隊商に声をかけたら百人二百人簡単に集められるだろう。そうなればあんちゃんの儲けは鰻登りだろうよ。


 ……その苦労も鰻登りだろうけどな……。


「おれの手に余るんだが」


「そうならないよう話を詰めてこいって言ってんだよ。さらに量が増えたらクレインの町辺りに飛空船場が欲しくなる。そうなりゃ、そこまで続く道がいる。道を造るには人がいる。人がいたら食わせなきゃならん。先先を見ておかなくちゃ破綻するだけだぞ」


 オレは鍛冶で使える量さえあれば充分。大量にはいらねーんだよ。


「もし、手に余るなら会長さん、バジバドル商会の手を借りろ。王都なら人も港も使えるからな」


 あちらにも富を渡しておかないと文句を言われそうだ。チャンターさんがやってくれるなら万々歳だぜ。


「王都なら地下からいける。東の大陸との繋がりは欲しいだろうから無碍にはされんだろう」


 中継島──ハイクリット島がある。


 飛空船で運ぶより船で運んだほうが安上がりだろうよ。海賊もいなくなっただろうしな。


「お前はどこまで先を見通してんだよ?」


「見えるところまでだよ。あ、東の大陸のほうの港も牛耳っておけよ。でないとヤクザもんに利益を奪われるぞ」


「仕事がいっきに増えすぎだ!」


「こうやってアバールの仕事が増えていくんですね」


「オレは強制はしてねー。すべてあんちゃんが決めたことだ」


 やりたくないのならやらなけりゃイイ。ただ、それだけのことだ。


「クソ! アダガ、協力してくれ。まずはバジバドル商会と話し合う」


「わかりました。こちらにも関係あることですからね」


 イイ商売相手でなによりだ。


 食堂を飛び出していく二人をコーヒーを掲げて見送った。

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