第1442話 商売人たち

「執事さん。カイナーズホームでゼルフィング家で働いている者って判別できてるのかい?」


「ゼルフィング家で働く者は身分証明書を持参させておりますので、提示させれば判断できます」


 身分証明書? あ、そう言えば、地下から上がってきたとき、青鬼メイドが首からなんかぶら下げていたな。気にもしなかったが、あれが身分証明書だったんか。


「カイナーズホームの店長に話して、十日間だけゼルフィング家で働く者はフードコートで無料にしてくれ。かかった代金はオレが払うから」


 十日間なら休みに被るだろうし、あそこは二十四時間営業。仕事終わりにもいけんだろうよ。


「畏まりました」


「サプル。十日間は食事を豪華にしてやれ。祝いだ」


 ちょうどやってきたサプルにそう指示を出す。


「わかった!」


 カイナーズホームにいけないヤツもいるかもしれんからな、食事を豪華にしておこう。


「野郎どもには親父殿の名で酒を出してやれ。まあ、飲みすぎないていどにな」


 酒飲みは本当に飲むからな。注意だけはしておこう。


「畏まりました」


「オレは食堂にいるよ」


 あるていど指示を出しておけば執事さんやメイド長さんがやってくれるだろうよ。


 食堂に向かうと、馴染みのヤツらが酒盛りしていた。


「お前ら、ほどほどにしておけよ」


「わかってるさ」


「自重して飲むでござるよ!」


 剣客さん、ござるキャラは止めろや。ござるキャラはあの腐れだけで充分なんだからよ。


「べー」


 と、婦人がやって来た。


「シャニラさん、双子を産んだそうね。おめでとう」


「ああ。わざわざありがとな。仕事中にワリーな」


 あと、仕事を丸投げしてゴメンナサイ。


「少しの時間なら部下に任せられるようにしてるわ」


 婦人の働きに土下座感謝したいが、なんか踏まれそうなので止めておく。


「双子を見てやってくれや」


「いいの? 産まれたばかりでしょう」


「初産ってわけじゃねーし、出産経験のあるメイドさんが見てるから大丈夫だよ」


 この時代じゃ、周りに人がいて当たり前。姉御なんてずっとオカンの側にいたものだ。


「寝室はオレの力で清潔に保ってある。血を流してたり病気だったりしなければ問題はねーさ。オカンも静かに眠れるようにしてあるからよ」


「そう? なら見てくるわ」


 ハイ、いってらっしゃい。あ、メイドさん。コーヒーちょうだい。


 囲炉裏間へ上がり、メイドが持ってきてくれたコーヒーをいただいた。あーウメー。


「べー」


 と、今度はあんちゃんがやって来た。


「おう、久しぶり。サラニラ借りてありがとな。助かったよ」


「構わなねーよ。医者としてやってんだからな」


 どちらもプロ意識が高い夫婦だよ。


「仕事に励むのもイイが、家族計画はしっかりやっておけよ」


 夫婦の問題に口出す気はねーが、仕事ばかりが人生じゃねー。家族に目を向けるのも大事だと思うぜ。


「わかってるよ」


 なら、それ以上、オレはなにも言わんさ。 


「ザンバリーさんは、シャニラさんのとこか? お祝いを言いたいんだが」


「親父殿なら村長のところにお祝いを返しにいってるよ」


「本当にそつがない男だよ」


 呆れるあんちゃん。オレがやらしたと一瞬で見抜くか。いや、オレを一番理解してるんだから当然か。


「村人だからな」


「村人らしからぬことばかりやってるがな」


 それは問題ばかり持ってくるヤツが多いからだ。 


「村長のところか。おれも最近いってないな。この機会にいってみるか」


「そんなに忙しいのか?」


 いや、あんちゃんにも仕事を丸投げしてるけど!


「婦人ほど人を使う才能がないんでな、足で足掻いてるんだよ」


 それは婦人も思ってるだろうな。コミュニケーション能力が高いからな、あんちゃんは。


「いくんなら女衆に甘いものでも持っていくとイイぞ。今後のためにもな」


 酒と肉は乗せたが、甘いものは積んでねー。そこは、あんちゃんがカバーしてやれ。


「おれが来るのを見越してか。まったく、お前には勝てんよ」


「他で勝ってんだからイイだろう」


 オレだってあんちゃんに勝てんってことがあるんだからお互い様だ。


「はいはい。んじゃ、いってくるよ」


 おう、ガンバれ。サラニラが子を産んだときのためにな。


「べー!」


「お久しぶりです」


 あんちゃんが食堂を出る前にチャンターさんとアダガさんがやって来た。


「おう、いらっしゃい。チャンターさん、帰ったんじゃなかったっけ?」


 アダガさん、あなたのことは完全に忘れてました。ゴメンナサイ。


「帰ったよ。シュンパネで来てたらシャニラさんが出産したって聞いたからアダガを誘ってきたんだよ」


「アダガさんは、魔大陸に戻ったりしてねーのか?」


「わたしは、ヤオヨロズで商売してますよ。最近では土木業にも手を出しています」


 そういや前にシャンリアルから直接繋ぐ道を造れとか誰かに言ったな。誰やったっけ?


「アダガさんも商機に敏いな」


「周りは一流の商売人ばかりですからね。負けないよう必死ですよ」


「それはこっちのセリフだよ。優秀どころを真っ先に持っていきやがって」


 魔族をたくさん雇っているあんちゃんが文句を言う。


「それこそこちらのセリフですよ。ミザードを誘っていたのに横からかっさらっていくんですから」


 なにやら人材捕獲で争っているようだ。


 なんにせよ、活気ある商売ができててなにより、ってことだ。


 商売人たちのやり取りを眺めながらコーヒーを堪能した。

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