第1441話 村で暮らしていくために

「ほれ。いつまで見てんだ。子と同じくらい嫁を気遣ってやれや」


 ベビーベッドで眠る双子をデレデレと眺める親父殿を蹴りつけた。


「わ、わかったよ」


 渋々とオカンのところへ向かった。


 まあ、親父殿のことだからやってはいるだろうが、双子はもう眠ってんだ。年配のメイドに任せてたらイイさ。


 種族は違うが、同じ哺乳類(?)。腹の中で子を宿したことがある蒼魔族の年配メイドが控えている。


「蒼魔族って、産まれた直後から母乳が出たりするものなのか?」


 前世の記憶があるオレも出産直後に母乳が出るかなど知らんが、村では出産経験ある者が与えたりする。オカンもサプルが産まれたときにやっていたよ。


「個人差はありますね。すぐ出たり数日過ぎてから出たりします」


 そこは人と変わらんか。


「種族が違くても母乳を分け与えたりするかい?」


「はい。します」


「へー。そう言うことしたりするんだな」


 戦国時代な魔大陸でも子を育てるときは種を超えるんだな。


「あの、バイオレッタ様から乳を与えてくれと言われましたが、よろしいのでしょうか? 種が違うのに」


「うちの村では山羊の乳を飲ますぞ」


 もし、種の違いから問題が出るなら山羊の乳を飲んでも問題は出る。それに、狼の乳を飲んで育った話すらある。まあ、絶対に無害とは言えんだろうが、そう心配する必要はねーとオレは思っている。


 それに、他種の乳を飲ませることは、今後のためになる。


 ゼルフィング家は他種族多民族国家の一員ではないが、ヤオヨロズ国に深く関わっている。


 ましてやオレは、その黒幕と思われている。


 不本意ではあるが、他種族多民族国家を認めたゼルフィング家の子が他種族の乳で育ったと知られれば印象もよくなる。他種族を認めている実績となる。


 ゼルフィング家が率先すれば他も認めざるを得なくなるだろう。


 ってことをオババに話し、他種族から乳を与えるようオカンを説得してもらったのだ。


「二人とも赤毛なんだな」


 まだ産まれたばかりだからしわくちゃな顔で、誰に似てるともわからねーが、どちらも頭髪は赤毛だ。親父殿の血をより濃く継いでるみてーだ。


「あんちゃん、名前はどうするの?」


 キラキラした目で双子を見ていたサプルが尋ねてきた。


「それは親父殿次第だな」


「また長い名前になる?」


 とは、トータ。


「それは勘弁して欲しいな。兄弟の名前を覚える苦労とかしたくねーしな」


 自分の名前でも覚えるのに数年かかった。ヴィアンサプレシアやヴァルリートファクトゥーダを空で言えるようになるのにも時間がかかったしな。


 ……あ、オトンの名前、九割近く忘れてる……!?


「いや、それはもう忘れてますよね」


 だ、大丈夫。オトンの名前はメモしてポケットに入れてある。読めば普通に言えるさ。


「メモを見ないと言えない名前とか、子どもへの嫌がらせですか?」


 愛はときに足枷となるイイ見本だな。


「まだ名前のない兄弟たち。健やかに育てよ」


 双子の頬をツンツンする。


「さて。親父殿。オカンや双子が目覚める前にやるぞ」


 オカンの手を握る親父殿の首根っこをつかんで寝室を出た。


「な、なんなんだよ! なにをやるんだよ!?」


「村への祝い返しだ。結婚式にもやっただろう?」


 自分で歩かせ、玄関へと向かった。


「子どもが産まれてもやるのか?」


「やっておいて損はねーな。親父殿はこの村で唯一の貴族だ。村の領主ではないにしろ、身分的には一番上だ。村長でも蔑ろにできねー存在だ」


 ってことは結婚のときにも言ってある。


「なにより、他種族を雇っている家の家主。配慮をしてしすぎるってことはねー。メイドたちにはオレがやっておくから村長には親父殿が報告にいけ。酒を持ってな」


 ボブラ村で生きていくなら村の者を味方にしておく。上手く立ち回らなければ村じゃ生きていけねーんだよ。


「……お前は、村のことになると細かくなるよな……」


「村人だからな」


 S級村人だからこそ村で生きることを疎かにできねーんだよ。


「用意は?」


 玄関にいた執事さんに尋ねる。


「はい。できております」


 扉の左右に立つメイドに命じて扉を開けさせた。


 外に出ると、馬車が四台並んでおり、その荷車には酒樽とこの辺では見ねー猪が何頭か載せられてあった。


「ご苦労さん。短い時間でよくやってくれた」


 そこにいるメイドたちが一斉に頭を下げた。


「さあ、親父殿。いってこい。双子がこの村で生きやすくなるようにな」


 それは親である親父殿の役目。そして、父親としての仕事だ。大いに果たしてこい、だ。


「わかったよ」


 呆れたように肩を竦め、馬車へと乗り込んだ。


「まあ、遅くなる前に帰ってきな。その頃にはオカンも目覚めてるだろうからな」


「わかってるよ」


 発車した親父殿を見送り、姿が消えたら館へと入った。

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