第1440話 母子ともに健康

 鳴き声が増えた。


「ん? 双子か?」


「みたいね。村で双子なんて初めてね」


 村に双子が不吉なんて迷信はねーが、確かに双子って聞いたことねーな。自由貿易都市群には六つ子のばーさんはいたけど。


「オカンの親族に双子とかいましたか?」


「ん~聞いたことはないわね?」


「じゃあ、親父殿のほうの血だな。なんか双子のおばさんがいたとか聞いた記憶がある」


 女が生まれやすい一族で、双子もたまに生まれるとかなんとか言っていた。


「双子か。オカン、大丈夫か?」


 一人でも大変なのに双子では母体もかなりの負荷がかかってることだろうよ。


 やきもきしながら待っていると、寝室の扉が開いてメガネ女子(見習い魔女ね)が出て来た。青い顔して。


「……男の子と女の子の双子です……」


 そう言うと口を押さえて駆けていってしまった。


「委員長さん、頼む」


「わ、わかったわ」


 出産に衝撃を受けたのだろう。慣れないと結構グロいからな、出産って。いや、オレは立ち会ったことねーけどよ。


「まあ、ともかく、無事に産まれてなによりだ」


 中が騒いでいる様子もねー。母子ともに大丈夫ってことだ。


「メイド長さん。働いている者らに振る舞い酒を出してくれ。あと、カイナーズホームから葡萄酒を樽でたくさん買ってきてくれ。親父殿の名前で村に配るからよ」


 親父殿はもうボブラ村の名士で貴族でもある。祝い事に酒でも振る舞わないと立場がなくなる。配慮は義務みたいなものだ。


「畏まりました」


 控えるメイドに指示を出すメイド長。できる人がいてくれてよかった。オレだけでは対応できんからな。


「あなたは、そう言うところそつがないわよね」


「人が人の中で生きていくには配慮が大切だと知っているだけさ」


 この村で生きていくと決めたのだ、生きやすいように立場を築くのは当たり前のことである。


 椅子に座り、ミタさんの配下たるメイドにコーヒーをもらって落ち着く。産まれてすぐは赤ん坊の体を洗ったりとやることはある。入れるのはもうちょっと時間がかかるだろうよ。


「姉御は見てきたらどうだい?」


「そうね。見てくるわ」


「あんちゃん、おれらは?」


「たくさん人が押しかけてもオカンが疲れるからもう少し待て。野郎は最後だ」


 別についてなくちゃならないってこともねー。逃げやしねーんだから落ち着いてからで充分だよ。


 二十分くらいして寝室からオババが出て来た。


「お疲れさま。そして、ありがとうございます」


 オババに深々と頭を下げた。


「お前さんは、変なところで真面目だね」


「真面目に命を救おうとしてる者に真面目で返さなきゃ失礼だろう」


 オレがオババを尊敬するところはそこだ。オババは命を救うことに真剣で真面目だ。そのための努力は惜しまねー。きっとそうなる出来事があったんだろうと想像できるが、それでもオババがやってきたことは尊敬に値する生き様だ。


「ふふ。お前がわたしのあとを継いでくれるといいんだけどね」


「それは、ニーブに譲るよ。しっかり教え導いてやんな」


 ニーブに飛び抜けた才能はねーが、努力家だ。オレに嫉妬することなくコツコツと知識と技術を高めている。オババのあとを継ぐならニーブだろうよ。


 ……まあ、叡知の魔女さんにちょっかいかけられるおそれはあるがな……。


「ふん。まあ、母子とも健康だ。あとはサラニラに任せるよ」


「ああ。サラニラも勉強になんだろう。メイド長さん。オババを頼むよ」


 取り上げも結構疲れるものだ。しぶといオババでも疲労はそうとうなものだろうよ。


「畏まりました」


 テキパキと指示を出すメイド長。この人、本当に指揮能力が高いよな。


「トータ。赤ん坊を見にいくぞ」


 オババが出てきたならもう安全だ。見にいっても問題ねーさ。


「うん」


 寝室に入ると、かなり模様が変わっていることに気がついた。


 ……離れに似た作りになってんな……。


 寝台にはオカンが疲れた顔しながらも安堵とも満足ともつかぬ笑顔で横になっており、赤ん坊はベビーベッドに寝かされていた。


 赤ん坊を見詰める親父殿はとりあえず放っとくとしてオカンの横へと向かった。


「かなり疲労してるな」


「そうだね。二人はキツかったよ」


「だな。オレも双子とは思わなかったよ」


 オレも脈拍や舌の具合、心音を確かめる。


「サラニラ。オカンの具合はどう思う?」


 寝台の反対側にいるサラニラに尋ねる。


「悪くはないわ。出血もなかったし、痛みもないみたいだからね」


 ボブラ村に来てからそれなりに医者として働いていたようだ。曖昧なことを口にしないよ。


「そうか。なら、問題ねーな」


 オババが診て、サラニラが診て、オレが診て問題ねーなら大丈夫ってことだ。


「お疲れさま。あとはオレらがやるからゆっくり眠りな」


「ああ。そうするよ」


 世話役のメイドに背中のクッションを抜いてもらい、オカンを寝かせた。


 眠りに落ちる前にオカンの手を握る。


「ご苦労さまな」


 柔らかい笑みを浮かべ、オカンは眠りへと落ちていった。


 さてと。オレらの兄弟とご対面といこうかね。


 オカンが静かに眠れるよう寝台を結界で包み込んだ。イイ夢を。

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