第1438話 待機

 姉御とこれと言った話もなく、出されたコーヒーを飲んでいたら見習いたちがやって来た。


「今日はここから動かんから好きにしててイイぞ」


 食材回収もまだ途中だが、オカンが子を産むまでは動かないつもりだ。


「それでも動くのがあなたでしょう」


 姉御の言葉に見習い魔女どもが左右へと座った。オレ、信用の欠片もねー!


 なんてことはどうでもイイと、無限鞄から本を出して読書することにする。


「随分と難しいものを読むのね。ラインの魔術師って、帝国のライン・ハルよね?」


「ライン・ハルって、誰?」


「炎の魔術師として有名なライン・ハルよ。大図書館にもあるから読みなさい」


 委員長さんがツンツインテールを叱った。


「委員長さんは読書家なんだな」


「地下に一国並みの書庫を持っている人にいわれてもね。貴族でもあんな量は集められないわよ」


「あらゆる人脈を使って集めたからな」


 大きな隊商と繋がりを持ったり、あんちゃんの伝手を頼ったりと、なかなか苦労したもんさ。


「あ、館長から渡された本、書庫に入れといたわ」


「それはありがたい。でも、大図書館の本を渡したりしてイイのか?」


 報酬としてねだったが、よくよく考えたら大図書館は書店ではねー。苦労して集めただろう本を渡したりしてはダメだろう。


「貴重な本じゃないから大丈夫でしょう」


 この時代で、貴重じゃない本はないだろうに。大図書館で暮らしている弊害だな。


「メイドさん。濃い緑茶ちょうだい。人数分」


 レニスがいたところで買ったみたらし団子を無限鞄から出した。


「姉御もどうぞ」


「ありがとう」


 なんの躊躇いもなくみたらし団子を口にする姉御。まあ、喫茶店から浅草に繋がってるから食ったことあるんだろう。


「あんちゃん!」


 さっぱりして服を替えてきたトータがやってきた。頭に花を咲かせて。


「ここにきなさい」


 姉御が少し横にズレてくれ、メイドさんがサッと椅子を用意してくれた。


「トータに牛乳を頼むわ」


「畏まりました」


「ほれ。旨いから食え」


「うん」


 みたらし団子に手を出し、旨そうに食うトータ。こうして同じテーブルで食うの、久しぶりだな。


「みたらし団子か。懐かしいわね」


 トータの頭に生えていた花が抜け、ポン! とばかりに人へとトランスフォームした。


「な、なに!?」


「もしかして、花人族?!」


 そばかすさんは知ってるのか。他の地にもいそうな感じだな。


「初めまして、魔女さんたち。わたしは、ジョセフィーヌ・ラ・フランシェカ。まあ、長いからチャコでいいわ」


 その長ったらしい名前からなぜチャコが出てくるんだ? まあ、どうせ前世の名前からきてるんだろうが、最初からチャコと名乗れよ。なんの拘りだよ。


「本当に花人族がいるなんて」


「ふふ。地味な花でごめんなさいね」


 地味ではあるが自己主張は強いがな。


 かしまし娘どものおしゃべりをBGMにしながらみたらし団子をパクついた。


「あんちゃん。おかあちゃん、大丈夫?」


「大丈夫だよ。安心して待ってろ」


 トータが産まれた頃とは違う。万全の用意を整えたのだから心配することなんてねーさ。


「弟かな? 妹かな?」


「そうだな。親父殿の家系は女が多く産まれる家だから妹かもな」


 男は親父殿を含めて三人しかいないって言ってたっけ。


「妹か~。おれは弟のほうがいいな」


 ふふ。姉を持つ身としては弟のほうがイイんだろうな。


「弟だったら可愛がってやれ」


 妹の場合はサプルが可愛がりそうだからな。


「また長い名前になるの?」


「それは親父殿が考えるだろうから、短くなるんじゃねーか?」


 親父殿はアーベリアン出身。オトンのように長い名前はつけたりしねーだろうよ。


「失礼します。奥様が産気づきました」


 時間を見れば十時前。これから長い時間になりそうだな。


「わかった。寝室の前にいくか」


 オレが席を立つと、全員が席を立った。


「時間がかかると思うから食堂にいてイイぞ」


 姉御はついて来るだろうが、見習いどもが付き合う必要はねー。


「出産がどんなものか知りたいからいくわ」


 まあ、魔女でいるなら出産経験はねーだろうし、学べるときに学んでおけ、だ。


「好きにしな」


 そう言って食堂を出て寝室へと向かった。

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