第1436話 オカンが先

「──ふがっ!?」


 なんか額に衝撃が起きて目覚めた。な、なに?


「起きろ、このバカ」


「……ニーブ……?」


 が目の前にいた。なんの夢だ?


「起きろ、バカ!」


 また額に衝撃が。ってか、額をピンポイントで蹴るなや! 汚ねーパンツが見えんぞ!


「止めろや!」


 いつまでも汚ねーパンツを見せられながら蹴られる趣味はねーので起き上がった。


「ったく。なんなんだよ?」


「女に囲まれて起きる朝はどんな気持ちよ?」


 はぁ? 女に囲まれて? なんだい、いったい?


 周りを見れば魔女さんたちが眠っていた。


「……あー、どこでも部屋を創るのメンドクセーからそのまま横になったんだっけ……」


 食材回収が思った以上に疲れたみたいで、腹一杯になったらなにもかも億劫になったんだよな。


「で、なんでニーブがいるんだ?」


 どこから湧いてきた?


「ジャックさんのところにいこうとしたらここに出ちゃったのよ」


「なんだお前、方向音痴か?」


 いくら薬師の見習いとは言え、外に出て方向音感覚を鍛えないと旅に出たとき困るぞ。


「しょうがないでしょう。ハブルームに魔女がいなかったんだから。行き先書いといてよ」


 なんだ、ハブルームにいた魔女まで来てたのかよ。叡知の魔女さんに知られたらどやされるぞ。


「わかったよ」


 ニーブに蹴られながらキャンピングトレーラーからハブルームへと向かう。


「えーと。バリアルへのドアはどれだっけ?」


 強制的に起こされたから頭が回らんわ。


「どこでも部屋でイイか」


 支店からだと歩かなくちゃならんし、時間もかかる。宿屋に繋げたどこでも部屋でイイやろ。


「ジャックのおっちゃんのところにいくときはこのドアだ」


 どこでも部屋と結界でプレートを創り出してドアの上に掲げた。


 ドアを開けてどこでも部屋に入り、宿屋へ繋ぐドアを開けた。


「なんでこんな面倒にしてんのよ?」


 あ、方向音痴にはこれでも迷うんだ。


「んじゃ、直通を創るよ」


 つーか、最初からそうしておけばよかったって話だよな。


 宿屋からジャックのおっちゃんのところへと向かった。


「なんだ、また来たのか?」


「ちょっとな。あ、こいつがニーブだ。ほれ、挨拶しろ」


 ニーブを前に出す。


「お前さんがニーブか。このバカに苦労させられてそうだな」


 いきなりオレの悪口か? ジャックのおっちゃんに迷惑かけたことねーだろうが。


「はい。このバカに苦労させられっぱなしですよ。ニーブです。兄弟子」


「あはは。べーに感化されてなくてなによりだ」


 腐ったミカンみたいな扱いすんなや。


「おっちゃん。奥の壁、使わしてもらうな」


 奥へと入り、壁に転移結界門を創り出し、薬所へと繋いだ。


 ドアを潜り、薬所へおはようございます。オババはいませんでした。


「ニーブ。ちょっと来い」


 声を出してニーブを呼んだ。


「お前、うちを変なふうに改造すんなよ」


「大丈夫。変なふうには改造してねーからよ」


「してたのかよ!」


 オレにとっても大事なところ。なら、安全に改造するのは当然だろうが。


「ここからオババのところにいけるようにしたから、おっちゃんとオババで話をしておいてくれや」


 そう言って店から外に。転移バッチでキャンピングトレーラーへと戻った。


 ……転移できるようになってから楽してばっかりだな、オレ……。


「人間は堕落する生き物とはよく言ったものだ」


 キャンピングトレーラーに入ると、魔女さんたちが起き出していた。


「風呂に入ってシャキッとしろや。だらけてっと上司に怒られんぞ」


 まあ、上司的立場のヤツらがだらけてんだけどよ。


「そうね。少し自由にしすぎたわ」


 少しではなくかなり、だったがな。


「魔女さんらはどこでも部屋の風呂を使えな」


 オレはキャンピングトレーラーのシャワーを使うとする。


「そういや、キャンピングトレーラーのシャワー使うの初めてだな」


 一人用のシャワーだが、高級車なだけに設備はしっかりとしており、ちゃんとお湯が出るようになってる。気持ちえ~わ~。


 すっきりさっぱりさせてシャワーを出ると、ダークエルフのメイドさんが立っていた。


「おはようございます、べー様。奥様が産気づきました」


 レニスを見舞うよりオカンのほうが先に来たのかよ。あ、だからオババがいなかったんだ。


「わかった。帰るよ」


 ダークエルフのメイドさんに続き外に出て、転移バッチで館へと戻った。

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