第1434話 チーズフォンデュ

「ダメだ。間に合わん」


 四百もの冷蔵庫から無限鞄に入れるだけなのに、結構時間を要しやがるぜ。


 昼からざっと二百個くらいか? まさかこんなに手間取るとはな。出すときのことを考えたら目眩がしてくるぜ……。


「今日はここで終わるか」


「そうだね。大したことしてないのに疲れたよ」


「……わたしたちはいったいなにをさせられてるの……?」


 食材回収って説明したでしょうが。なに忘れてんだよ。


「また明日にするか」


「アーベリアンに帰るの?」


「いや、キャンピングトレーラーに泊まるよ」


 まだ色っぽい魔女さんも住み着いてないだろうし、住み着いててもまた新たな部屋を創ればイイだけさ。


 冷蔵庫の前に転移結界門を創り出し、キャンピングトレーラーへと繋いだ。


「委員長さんらが先に入ってくれや」


「どうしてよ?」


「女の部屋にいきなり入るわけにはいかねーだろう」


 お着替え中とか、ベタな展開なんぞ望んじゃねー。見たから死刑! とか言われたらイヤだわ。


「そんな気遣いできたのね」


「オレは気遣える男だよ」


 特に女にはな。


「説得力、まるでないですね」


 説得したいわけじゃねーからイイんだよ。


 魔女さんに入ってもらい、大丈夫なのを確認してもらってからキャンピングトレーラーへと入った。


 これと言って変わったところなし。どこでも部屋のほうを使ってるのかな?


「わたし、ミラを見てくるね」


 ミラ? なんだ?


「ツンツインテールと呼んでる魔女ですよ。バリアルに放置した」


 あ、バリアルに置いてきたっけ。なにしてんだ?


 まあ、なんでもイイや。さっさと夕食の用意をいたしましょう~♪


「なにするの?」


「チーズフォンデュを作る」


 チーズを見てから今日はチーズフォンデュにしようと決めていたのだ。


 コンロと土鍋を出して切り株のようなチーズを細かくして放り込み、山羊の乳、塩、白葡萄酒を目分量で入れてゆっくりとコンロに火を点けた。


「委員長さん。焦がさないようゆっくりとかき混ぜててくれ」


「わ、わかったわ」


 おっかなびっくりと、渡したかき混ぜ棒でチーズを攪拌している。


「料理はしねーのかい?」


「しないわよ。必要もなかったし」


 まあ、花嫁修業してるわけじゃねーんだからしなくてもしょうがねーか。


 無限鞄から固く焼いたパンを出し、一口サイズに切り分けた。


 あと、野菜もあるとイイかもと、昔、うちの畑で作った野菜を出して大鍋で茹でた。


 グツグツと茹でていると、キャンピングトレーラーのドアが開き、色っぽい魔女さんや真面目先生、細身の魔女やサダコ、あと見知らぬ魔女が何人か入って来た。


「わたしを置いていかないでよ!」


 と、ツンツインテールに蹴られてしまった。すぐ手や足が出るって、ほんとサリバリみたいな女だよ。


「ハイハイ、ごめんなさいね」


 反論すると余計に蹴られるので謝っておく。


「いい匂い。なに作ってるの?」


「チーズフォンデュだよ。さっきのチーズを使ってな。興味があるなら食ってくかい?」


 とは、色っぽい魔女に尋ねた。


 支店には食堂もある。あっちのほうが旨いものを出すだろうよ。


「そうね。いただくわ。でも、足りるかしら?」


「問題ねーよ。あ、酒は食堂でもらってきな」


 オレが出してもイイが、ここならバリアルの葡萄酒を仕入れているはず。どうせ飲むなら地元産のほうがイイだろうよ。


「あ、わたしがもらってきます」


 率先してそばかすさんがもらいにいった。


 茹でた野菜を結界ザルで掬い上げ、一口サイズに結界斬! で完成よ!


「肉もいっとくか」


 確か、肉もいけたはず。オーク肉でいくか。


 オーク肉はよく焼かないと腹を壊すから、炭火でじっくりと焼いていく。


「これ、いつまでかき混ぜればいいの?」


「そんなもんでイイよ。パンと野菜を串で刺して鍋の中に入れてチーズを絡めて食うものだから、先に食ってな」


 人数が人数だからもう一鍋作っておくか。魔女って何気に大食漢だからな。


「あ、でも食いすぎるとデザートが入らんからな」


 チョコフォンデュも挑戦してみよう。バナナチョコ、久しぶりに食いたくなったぜ。


「お任せしました」


 そばかすさんが葡萄酒の小樽を抱えて戻って来た。


「そばかすさんも先に食ってな」


 新たにコンロと鍋、チーズを出して溶かしていく。


「これってどこの料理なの?」


「どこかの国の田舎料理だな。まあ、正確には溶かしたチーズをパンにつけて食う料理だがな」


 フランスと言ってもわかんねーんだからそう言うことにしておく。


「よし。肉が焼けたぞ。同じくして食ってみな」


 オレも新たな鍋にパンを入れ、チーズを絡めて実食する。


「まあまあだな」


 チーズが違うからか、前世で食べた記憶とは違うが、そう悪くはねー。サプルに任せたらこの十倍は旨くなるだろうよ。


「これは、白葡萄酒がいいわね」


「わたしは麦酒がいいかな」


 大人組がチーズフォンデュに合う酒の談義を始めてしまった。


 ……大食漢だけじゃなく大酒飲みでもあるんだな……。


 まあ、魔力を使う職業(?)。回復にはたくさん食べねーとダメなんだろうよ。


「肉もイイな」


「あ、わたしが焼くよ」


 そつのないそばかすさん。魔女でなくメイドになったほうが出世できんじゃね?

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