第1431話 草ゾーン
店主のおっちゃんが冒険へと旅立っていった。
「君に幸あれ」
なんかよく知らんが、敬礼して見送ってしまった。ノリと勢いって怖いよね。
「さて。戻るか」
まあ、戻ってどうすんだって話だが、せめてレニスを見舞ってから帰るとしよう。
「食材をいただきに戻るか」
まだ骨しか回収してねー。さすがに金貨一枚分くらいで諦められねーよ。
「そういや、委員長さん、戻って来ねーな」
「ララちゃんを叱ってるんじゃない? 報告書のことで」
一月近く書いてないとか、ララちゃんにしたら悪夢でしかねーだろうな。
「見習いは大変だな」
今のオレからは想像できねーだろうが、前世のオレは夏休みの宿題は最初の一週間で終わらせてたし、絵日記は毎日欠かさず書いていた。夏休み最後に宿題をするヤツを理解できなかったもんだ。
……今生のオレは宿題をやらないで提出するタイプだな……。
「おっちゃん、また地下に降りるな」
「おう。ラーメンは食えたかい?」
「ああ、旨いのが食えたよ。あまりの旨さに勧誘して、うちの村に来てもらうことにしたよ」
「そうか。そりゃよかった。マイリーは昔から外に出たかったからな」
マイリー? って、あの店主のおっちゃんか。まあ、明日には忘れてそうだがな。
「べー様の場合、次の再会まで忘れてそうですよね」
否定はしねー。きっと店主のおっちゃんと再会するのは数ヶ月だろうからな。
地下へと降りて11……あれ? 何番だっけ? 八百以上あったから1200周辺から回収していくか。
「つーか、移動するのもメンドクセーよな」
歩けば大した距離ではねーが、この倉庫のようなところだと歩くのが億劫になるぜ。
「この通路幅だとコーレンか?」
クリエイト・レワロで結界式輸送飛行艇カブリオレを創ったが、幅は二メートルちょっと。この通路幅ではぶつかってしまう。
「う~ん。コーレンの操作、あまり得意じゃねーしな~」
あ、ないのなら創ればイイじゃない、だ。
って言うか、創るもなにも空飛ぶ結界で充分か。移動するだけなんだしよ。
通路幅に合わせた空飛ぶ結界を創り出し、ふと思い出す。そういや、築地で荷物を運んでたリフトみたいなヤツ、ターレ? ターレット? なんだっけ? まあ、ターレでイイか。
記憶にあるターレの形に変える。操作はよー知らんから空飛ぶ結界のように操ればイイや。
「そばかすさん、乗りな」
「また変なもの創り出したね」
「空飛ぶ箒みたいなもんだよ」
ターレに乗り込み、1100の列に向かった。
「ねぇ、べーくん。今さらだけど、なんで冷蔵庫を向かい合わせにしないんだろうね? そうしたら移動する手間が省けるのに」
言われてみれば確かに。非効率だな。いや、冷蔵庫並べるのも非効率だけどよ。
「あのアホの考えることはよーわからんよ。大した理由はねーと思うぞ」
そうだ、冷蔵庫があれば便利だよね。じゃあ、出していこうっと──てな感じで出していったんだろうよ。
時速三キロくらいで進み、1180のところで停止させた。
「ここから辺から再開させるか」
ターレを降りて冷蔵庫のドアをオープン。入っていたのは……草? え、草? なんで草が入ってんの!?
「ミジーね」
「ミジー? って言うのか、これ?」
「帝国南部でよく食べられるものだよ。バリッサナでも食べるんだね」
「旨いのか?」
オレには雑草にしか見えんのだが……。
「それなり、かな。ミジーは貧血によく効くものだから大図書館でもよく食べられてるよ」
貧血に? ほうれん草的なものか?
「おひたしにしてマヨネーズと醤油かけて食ったら旨いかもな」
ほうれん草にマヨネーズ? とか思ったが、やってみたら意外と旨かった。それなりにってんならマヨネーズと醤油で旨くなるかもな。
「これは、館に持ってってやるか」
魔族に効果あるかはわからんが、害が出ることもなかろう。食ってみて様子を見たらイイだろうよ。
ミジーが入った冷蔵庫は三つ。そんなに食わないものなのか?
「そこら辺に生ってるものだからね、そんなに保存しなくてもいいんだと思うよ」
「なるほどな」
それなら納得だ。
「今度はなんの草ゾーンに突入したんだ?」
なんか、しその葉みたいなのが詰まっていた。
「ロソンの葉だね。刻んで肉にかけて食べられるものだよ」
一枚つかんで口に放り込んだ。
「辛いな」
芥子ではなく山葵のような辛さだ。
「これは、肉より魚に合いそうだな」
赤身の刺身に巻いて醤油をちょっとつけて食べる。うん、合いそうだ。
「これはハルヤール将軍のところに持ってってやるか」
人魚は苦味を好むが、辛味もイケる。肉に合うなら尚更だろうよ。
ロソンの葉もよく取れるのか、この冷蔵庫にしか入ってなかった。
「また新たな草ゾーンかよ」
今度は蓮の葉みたいなのが詰まっている。
「ミミジだね。乾燥させてお茶として飲まれてるものだよ」
「お茶? 旨いのか?」
「うーん。わたしはあまり好きじゃないかな? でも、お通じが悪い人はよく飲んでるね」
便秘薬かよ。
「効果はあるのか?」
「毎日飲んでればね。一杯二杯では効果はないよ」
それでも便秘解消できるなら価値ある。村の女衆で便利気味なヤツが多いからな。
「ってか、何気に詳しいよな、そばかすさんって。チビッ子と同じく植物に詳しいのか?」
そういや、チビッ子はどこに置いてきたっけ?
「ミルシェほど詳しくないけど、それなりには知ってるかな」
「器用貧乏か、そばかすさんは?」
「器用貧乏?」
「なんでも人並みにはできるが、極めるほどまでにはいかないって感じだな」
これまでのことを思い返すと器用貧乏の特徴ばかりだった?
「あ、そうだね。それかも」
あっさり肯定するそばかすさん。それほど気にはしてないよーだ。
「まあ、わたし、熱しやすく冷めやすいから」
まるでオレみたいだな。
他人の性格にどうこう言うつもりはなし。次なる草ゾーンへと踏み入れた。
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