第1428話 アイアンハート
「はい、お待ち!」
注文していた料理が運ばれて来た。
オレたちがいるところ、食堂。入ったら注文する。オッケ?
「誰に言ってるんですか?」
誰ともわからない誰かにだよ。
「と言うか、頼みすぎじゃない? 食べれるの?」
次々とテーブルに並べられる料理に不安になるそばかすさん。まあ、金貨一枚分だからな。不安になってもしかたがねーだろうよ。
「これは保存用だよ」
バリッサナは豊かなようだし、金貨一枚分の料理を貯め込んでも他のが飢えることはねー。なら、じゃんじゃん持って来てー! だ。
「料理をかのタッパーに入れろ」
この日のためにタッパーを買っておいた。ってか、最初からタッパーに入れてもらうんだった! とか言ったら悲しいので無心で移し換えましょうね~。
「金貨一枚分と頼んでおいてなんだが、この食堂、よく金貨一枚分の食材貯め込んでたな。どうなってんだ?」
次から次へと料理が出て来やがる。この食堂、意味わかんねー!
「いやー、今日のお客は豪快だね。冷蔵庫が入れ換えできて助かるよ」
なんかおばちゃんがやって来て、そんなこと言いやがった。ホワイ?
「あ、うち、地下に巨大冷蔵庫があるから金貨百枚でも余裕でいけるよ」
カイナだな、こんなアホなことするの。
「なら、金貨三十枚分頼むわ。つーか、食材のままくれや」
ちまちま料理を移し換えするより食材のままもらったほうが楽だわ。
「構わないよ。そのほうが楽だしね」
なんだか軽いおばちゃんだな。
まあ、なんでもイイやと地下の冷蔵庫へと案内してもらった。
「そうきたか」
量が量だから工場のデカい冷蔵庫を想像してたが、食堂の地下にあった冷蔵庫は業務用かと思う冷蔵庫がズラリと並んでいた。
冷蔵庫の数も驚きだが、地下の広さにもびっくりだな。
先は見えねーし、左右も先が見えねー。つーか、冷蔵庫の列、いくつあんだよ? 本当に意味わかんねー食堂だな!
「ここは、ハンターギルドの地下冷蔵庫でもあるんだよ。うちが借りてるのは1056から1889までだね」
「一食堂が借りる数ではねーよな?」
八百以上も必要とする食堂ってなんだよ? どんだけ客がくんだよ?
「ここは迷宮があったり魔境があったりと魔物がよく溢れるんだよ。だから、食料は溜め込むようにしてるわけさ」
「カイナのヤツ、ちゃんと考えてんだな」
「外から来たとは思ってたけど、カイナさんと知り合いかい?」
「義兄弟だよ。レニスが妊娠したから連れてきたのさ」
「レニス嬢ちゃんが妊娠!?」
レニスのヤツ、本当に町のヤツらから愛されてんだな。
「ああ。まだ母親と妹に説教食らってんじゃね?」
妊娠に説教とか胎児にワリーと思うが、レニスの性格では一日二日説教を続けねーと反省もしねーだろうよ。
「こうしちゃいられない。好きなだけもっていきな!」
と、階段を駆け上がっていった。
二度目となれば驚きもねー。1056の番号の冷蔵庫を探すとする。
ってまあ、列の上に番号札がかけてあるので、1000から1200の列は簡単に発見できた。
「一列二百もあんのかよ」
つーか、これだこの冷蔵庫を稼働させる電気はどこから運んできてんだ? まさか原子力発電とか言わんでくれよ。
……いや、原子力空母を動かしている時点で察しろ、だな……。
「誰かいるね?」
確かに遠くで人の声がするな。
「さっさといただくとしようか」
一つの冷蔵庫から出すだけでも大変そうなのに、八百以上から食料を出すとか苦行だわ。いや、百も開けられねーと思うけどよ。
冷蔵庫と冷蔵庫の間は二メートルくらいあり、なにかフォークリフトが走った跡があった。
……マジで原子力発電所があるのかもな……。
嫌な想像を振り払い、1056の冷蔵庫へと向かった。
冷蔵庫の幅が二メートルあるから五十番までいくだけでも距離がある。確かにフォークリフトがねーと心が折れそうだわ。
「べーくん。この冷蔵庫、なにか魔力を感じない?」
「魔力? あ、感じるな」
言われてみれば確かに冷蔵庫が魔力で覆われていた。
「ただの冷蔵庫ではねーのか?」
いや、ただの冷蔵庫なら長期保存は無理か。もしかして、結界魔法が施されてるのか?
1056の冷蔵庫を開けると、冷気が流れて来て、新鮮な野菜が詰められていた。
「カイナの力か?」
あいつにそんな芸当ができると思えねーが、実際やれてるところをみると、カイナって実力を隠してるっぽいな。
「食えない男だよ」
まあ、そんな男でもなければ魔族を率いるなんてできねーか。
「よし。やるか。そばかすさんは冷蔵庫の扉を開けてってくれや」
食材の整理は暇なときにして、今は無限鞄に詰め込むことに集中するとしよう。
「わかったわ」
これだけの冷蔵庫を見てもやる気満々なそばかすさん。アイアンハートの持ち主のようだ。頼もしいよ、まったく……。
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