第1426話 回復軟膏

 浅草からハブルームに入ると、なにやら魔女さんたちで混んでいた。なによ?


「すみません。散らかせてしまって」


 なんか無駄に母性を醸し出した魔女さんがやって来て頭を下げた。


「ここの長を任されたマミー様よ」


 と、委員長さん。名は体を表してんな。


「構わんよ。なにか改装して欲しいことがあるなら遠慮なく言いな」


 魔女には魔女の規律やら暮らしがあるだろうからな。


「ありがとうございます。では、さっそくで申し訳ありませんが、天井を高くしてもらえませんでしょうか?」


「天井を高く? またなんで?」


 あまり圧迫感がないよう天井は三メートルくらい高くしてある。小柄が多い魔女に低いとは思えんはずだが?


「天井に大陽の紋章を飾りたいのでお願いします」


「へー。魔女も大陽神を崇めてんだ」


 帝国は大陽神を崇めているが、魔女まで崇めているとは思わなかった。月の女神とか崇めているのかと思ったよ。


「国教ですから」


「信心深いこと」


 天井をさらに高くして、五メートルくらいにした。こんなものかい?


「はい。ありがとうございます」


「あ、それと、ここの空気はバリアルから入れてる。空気が合わないなら帝国の、大図書館から入れることもできるから、合わないときは言ってくれや」


 マイアに合わせてバリアルに設定したが、魔女さんが常駐するなら大図書館辺りの空気のほうが馴染むだろうよ。


「はい。そのときはよろしくお願いいたします」


 他にないのでバリッサナへと向かった。


 レニスの様子でも見ようとしたら、レニスの母親や妹たちがなにやら騒いでいた。


「あ、今は入らないほうがいいよ」


 部屋の外で中の様子を伺っていたカイナ。バカ野郎でも女の中に入っていくのは怖いようだ。いやまあ、オレもだけど!


「じゃあ、バリッサナを観光してくるわ」


「夜までに帰って来なね」


「おう、了解」


「その返事が信用ならないのがべーだよね。魔女さんたち、しっかりべーを見張っててね。一瞬でも目を離すといなくなるのがべーだから」


「この一月で嫌ってほど学びました」


「あはは。それはご愁傷様」


「人を厄介な存在みたく言うな」


 そう吐き捨てて外へと出た。


 まだ陽は高いので、テキトーにハンターギルドの周辺を見て回ってみた。


 ハンターギルドの周辺はそれなりに発展しており、道具屋や食堂、工房などが並んでいた。


「冒険者ギルドがあるところとなんら変わらんな」


 まあ、持っているのが剣じゃなく銃ってのがアレだが、これと言ってオレの好奇心を駆り立てるものはねー。でも、食料品店があったのでお邪魔させてもらった。


 中はコンビニくらいの広さがあり──って言うか、まんまコンビニだな! いや、花*花ほど現代的ではねーが、商品は前世のもの。カイナが供給してんのか?


「いらっしゃい」


 品出ししてるのか、棚の向こうから女の声が上がった。


「見せてもらうよ」


 そう声をかけて売ってるものを見ることにした。


 コンビニ商品など見てもおもしろくもねーが、なにか地元産の商品があるかもしれねー。それを探すのってのはワクワクするものだ。


 いろいろ見ていると、パンが売っている辺りにプラスチックの容器に入ったものが大量に陳列されていた。


 ……ガムか……?


 一つ手に取り、ラベルを見る。


「モリス軟膏?」


 ラベルにはそうとしか書いてねー。商品表示義務はないのか?


「おねーさん。これ、なんの軟膏だい?」


 大きなおねーさんに尋ねた。


「傷薬だよ。黄色が小回復。緑は中回復。青は上回復だよ」


「へー。軟膏の回復薬とは珍しいな」


 いや、軟膏タイプはある。ありはするが、主流は飲み薬だ。そちらのほうが効果があるから主流になっているのだ。


「これ、人気があるものなのかい?」


「そうだね。よく売れてるよ」


 なら、買い占めるのはダメか。三つずつ買って確かめてみ──あ、ここで使える金、持ってねーや。


「あ、いや、あったな」


 公爵どのに五千ラグ、金貨五十枚(領都で使ったから四十九枚か)をもらったっけ。


「おねーさん、ここでこの金貨使えるかい? 帝都では使えたんだが」


 金貨を一枚出してカウンターに置いた。


「ああ、使えるよ。若いのに大金持ってるね」


「おねーさんはカイナのこと知ってるかい? ハンターギルドを創ったアホ。あのアホの知り合いなんだよ」


「アハハ! カイナさんをアホ呼びかい。よっぽど仲がいいんだね」


 アホ呼びしておかしそうに笑われるカイナ。あいつはどんなアホをやってきたんだ?


「カイナ、受け入れられてんだな」


「当たり前だよ。あの人がいてくれたからこの辺境の暮らしがよくなったんだからね。まあ、あんたの言う通り、男どもとアホなことばかりやってたけどね」


 ほんっとーにあのアホは昔っからアホだったんだな。


「あんた、外から来たのかい?」


「ああ。レニスの腹が大きくなりすぎて帰れねーって言うからオレが連れて来たんだよ」


「レニス嬢ちゃん、帰って来たのかい!?」


「今、母親と妹から責め立てられてるよ」


「こうしてらんないよ!」


 と、店を出ていってしまった。


「……こりゃ、当分レニスに近づけなさそうだな」


 回復軟膏がいくらかわからんが、陳列棚に置くようなもの。そう高くはねーと判断させてもらい、カウンターに金貨を一枚置いて、十個ずついただくことにした。


 検証したらまた買いにくるし、足りなきゃそんとき払わしてもらいます。

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