第1424話 クルフ族
喫茶店で一時間くらい休憩してから散策散歩(?)を再開させた。
「今度は町にでもいってみるか」
浅草寺くらいしか見てないので、それ以外はどうなってるか知らんのだ。
「日光江戸村か?」
浅草寺の周りの建物は近代なのに、近代から出るとなぜか江戸時代へとタイムスリップしていた。どう言うコンセプトで創った?
「人、住んでんだ」
ガスも電気も通ってる感じはしねーのに、魔族──クルフ族か? って、よくよく見たらクルフ族がほとんどだな。浅草はクルフ族の住み処になったのか?
「あ、べー様ではありませんか」
ホケ~っと見てたら誰かに声をかけられた。誰や?
「フミです」
「あ、フミさんね。知ってる知ってる」
「明らかに忘れてた言い方ですよね?」
幽霊はちょっとシャラップだよ。
「そうですか。それはなによりです。最近出番がなくて忘れられているのかと思いました」
「ソンナコトナイヨー」
「そんなことあるよーと言ってるものでしょうに」
ほんと、幽霊はポルターガイストだけ起こしてろや。いや、それはそれで邪魔クセーけど!
「フミさん、ここに住んでんのか?」
「いえ、わたしはクレインの町に住んでおります。ヴィアンサプレシア号もヴィベルファクフィニー号もないですけど」
なんだろう。物凄く非難されてると思うのはオレの気のせいだろうか?
「いえ、全身から不服を醸し出してますよ、あれ」
ヤダ。そんなこと言われたらそうとしか見えなくなるじゃない!
「あー喉渇いたな~。どこかに喫茶店ないかな~?」
逃げるが勝ちよとばかりにフミさんから逃れようとしたら、ガシッと肩をつかまれた。
「うちそこですからお茶出しますよ」
すさまじい力で連行されてしまった。魔女さん、助けて!
オレの心の叫びも魔女さんたちには届かない。と言うか、目を合わせようとしねー。チクショー!
連行された先は武家屋敷のようなところだった。ここは?
「うちの一族が借りている家です」
一族か。考えもしなかったが、もしかしてフミさんってイイところのお嬢さんだったりするのか? クルフ族の女の前に立ってたし、親父さんも代表者的な立場にいたっけな。
家に入ると、おばちゃんらが迎えてくれ、客間へと通された。
すぐにお茶やらお菓子やらを出され、なんかフミさんに似た年配の女と老婆の集団がやってきた。なによ?
「母と祖母、おば様たちです」
「初めまして。フミの母でございます」
深々と頭を下げると、祖母とおばたちも深々と頭を下げた。そんな文化あるのか、クルフ族って?
「それはご丁寧に。こちらこそ初めましてだ」
あちらはオレを知っているだろうから自己紹介は省いた。
「娘がお世話になっておるばかりか一族を優遇していただきありがとうございます」
「別にクルフ族だけを優遇したわけじゃねーから礼なんていらんよ」
クルフ族だけじゃなくどの種族も優遇してはいねー。唯一優遇してるかもしれないのはミタさんくらいだろう。だが、それはいろいろ世話になってるから。その礼でやってるまでだ。
「失礼しました。ご不快を与えてしまったのなら謝罪します」
なんか武家の嫁みたいな母親だな。つーか、今さらだが着物着てたね。気づけや、オレ!
「べー様って、人とは違うものが見えてるんですか?」
ちゃんと人と同じものを見ていますから。
「不快には思ってねーよ。オレは種族にあった仕事を振ってるだけさ」
それもこれもカイナのせいだ。本来なら魔族はカイナが面倒みる立場であり、オレがやることじゃねーんだよ。
なのに、紆余曲折があってオレが仕事を振る羽目になった。あれ? もしかしてオレ、カイナに丸投げされた?
いや、丸投げの達人たるオレがそんなことあるもんか。これは気のせい。気のせいったら気のせいだ。うんうん。
「べー様。仕事をください」
直球ど真ん中で投げてくるフミさん。君、もうちょっとオブラートに包みなさいよ。一応、メイドとしてゼルフィング家で働いてんだからさ。
てか、仕事と言われてもフミさんは技術系メイド。いや、技術系のメイドとかなんだよ? って突っ込みたいが、そんなの今さら。うちにまともなメイドなんて求めるだけ無駄だけど。
仕事。仕事。仕事ね~。
お茶を飲み、茶菓子を食いながら考える。
「──うん。コーレンを作れ」
「コーレン、ですか? 小人族で使っていた曳舟」
「ああ。それだ。あれをもっと小型化して地下の移動用にする」
あの階段を登ったり下ったりはもうノーサンキュー。いや、体を鍛えるとか言っちゃたけど、やはり文明の利器に頼りたい。一般的になれば普通に使える。オレだけ楽してるとか思われないらずだ。
結界で台車に手すりをつけたようやコーレンを創ってみせた。
「年寄りでも扱えるものや病人を運んだり、荷物を載せたりと、いろんな種類を作れ。シュードゥ族は空飛ぶ箒を作った。なら、クルフ族はコーレンを作れ」
ライバル関係な間柄ならクルフ族にも空を飛ぶ乗り物を作れる技術はあるはずだ。ないなら小人族から学べや。
「予算はいただけますか?」
うちのメイド、しっかりしてるぅ~。
「オレの名で執事さんに上申しろ。あと、夫人に話を通しておけ。使い物になるなら売り出すからな」
「畏まりました」
すくっと立ち上がり、客間を出ていくフミさん。行動力のある女だよ。
「ってことだ。一族に話を通しててくれや」
これはクルフ族に与えた仕事。なら、クルフ族で仕切れ、だ。
「はい。ありがとうございます」
ハァ~。最近のオレ、こんなことばかりだぜ……。
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