第1419話 バリッサナ

 結界灯に照らされながら下っていると、カイナとばったり会った。


「よっ、カイナ。久しぶりだな」


「あ、よかった。やっと会えた」


 おもしろいことがあればすぐにやって来るだろうに、やっと会えたとは変なことを言う。


「べーって、捕まえたいときは絶対捕まえられないよね」


「人をレアモンスターみたいに言うな」


 そんな存在ならもっと自由気ままに生きてるよ。いや、今も働きもせず自由気ままに過ごしてますけど!


「で、なんか用かい?」


「実は、浅草とバリッサナに門を設置して欲しいんだ」


「なんでまた? 転移したらイイじゃん」


 バリッサナはカイナの故郷なはず。なら、転移ですぐだろう。


「いや、妊婦を転移ってよくないらしくてさ、一度、バリッサナに帰したいんだよ」


「里帰り出産か?」


「あーそれそれ。シェリーヌ、レニスの母親に妊娠報告したらすっごく怒られて、連れて帰って来いって言われたんだ」


 まあ、母親としたら娘がどこの馬の骨ともわからん男の子を宿したと聞かされたら怒るわな。オレならその男をぶっ殺しに向かうだろうよ。


「出産間近に連れて帰れとはメチャクチャだな」


 出産経験があるなら連れて帰る危険くらいわかんだろう。


「あ、いや、話の流れでべーのことも話しちゃってさ、門を創ってもらえってことになったんだよ」


 なるほどね。カイナの口振りからして娘はカイナのことを熟知している感じだな。


「門を創ることは構わんが、レニス、納得してんのか?」


 娘としては母親に会い辛いだろうよ。


「うちは、シェリーヌの決定権が強いからね」


「おっかない娘だ」


 まあ、それで順調に家が回ってるなら他人がどうこう言う資格はねーさ。


「昔は優しい子だったのにな~」


「女なんてそんなもんさ」


 子を産み育てる。優しいだけではいられねーもんだ。


「そんで、これからすぐにか?」


「うん。頼むよ」


「了解。なら、一旦外に出ねーとな。魔女さんたち、先にいってて構わんぞ。近くにいるメイドに尋ねたらフュワール・レワロ──浅草にいけると思うからよ」


「いえ、ついていくわ。あなたは少しでも目を離すといなくなるからね」


「あはは! わかってる~」


「うっさいよ! お望み通り消えてやろうか?」


「あ、ごめんごめん。今消えられたらおれが酷い目にあうよ。さっそくいこうか!」


 さっさと山を登っていくカイナ。逃げ足の速い男である。


 肩を竦めてからカイナのあとを追い、ボブラ村へと出る。


「じゃあ、おれにつかまって」


 そういや、誰かの転移でいくのこれが初めてだな、と思いながらカイナの服をつかんだ。


 魔女さんたちもカイナの服をつかみ、バリッサナへと転移した。


 で、現れたのは空港だった。


「ここは?」


「おれの遊び場だったところだよ」


 こいつは本当に自重しねーヤツだよな。ファンタジーな世界にエリアな八八を造りやがって。


「辺境公、だっけ? 文句言ってこねーのか?」


 確か、辺境公は公爵の下になるはずだが、権力的には辺境公のほうが上だと、公爵どのが言っていた記憶がある。


「マリドとはマブダチだから大丈夫」


「マブダチって、辺境公だろう?」


「べーだって公爵と友達じゃん」


 そう言われたら返す言葉もねーが、それは公爵どのの性格が可能にしていることだ。なにか深い繋がりがなけりゃマブダチにはならんだろう?


「本当はマリドが辺境公になることはなかったんだけど、おれが好きなように遊ぶために無理矢理やらせたんだよ」


「お前にそんな芸当ができるとはな」


 そう言う陰謀とか苦手……でもねーか。やればできるのに気分でやらねータイプだな、こいつは。


「おれにはなんでも出せる力があるからね、物量で押し切ったんだよ」


「札束で戦いをさせたらお前に勝てるヤツはいねーか」


「まあ、実際には金塊で殴ってやったけどね」


「もうお前が世界を支配しろや」


「前にも言ったけど、そんな面倒なことしたくないよ」


「でも、司令官とかなら喜んでやりそうだよな」


「いつか大艦隊を指揮してみたいよね」


「お前の場合、本当に大艦隊とか組織しそうで怖いよ。てか、なんでここに転移して来たんだ?」


 お前の素性を知ってるなら転移くらい驚かんだろうに。


「いや、うちってハンターギルドの総本山だから魔法や魔術で防衛してるんだよ。そこにおれが乗り込むと壊しちゃうんだよね」


 そういや、こいつの魔力って災害級だったっけ。もう慣れたからすっかり忘れてたわ。


「魔女さんたち、こいつの魔力に堪えられてるか?」


 一応、オレの結界を纏わせているが、こいつの魔力はオレの結界より勝ってる。多少なりは塞いでも完全には塞ぎ切れてねーはずだ。


「強い魔力は感じるけど、堪えられないほどではないわ」


「へー。魔女って凄いんだね。なにか特殊な訓練してるの?」


「え、ええ、まあ。魔力対抗訓練をしますので」


「それ、どんなものか留学生にやらせてよ。魔力抑えるのって結構疲れるんだよね。慣れてくれると助かる」


「オレからも叡知の魔女さんに伝えておくよ」


 見習いには酷だろうから、オレからの要請ってことにしておこう。


「わかったわ」


 オレの察しを理解した委員長さん。真面目だけど、空気が読めるタイプでなによりだ。 

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