第1417話 出産が優先

 メイドたちが住む宿舎? 的なところもやたらと広かった。


「ここは、女だけかい?」


 確かうち、男も雇ってたよな?


「はい。階層六から八までは男性用階層としております。ちなみにここは、第四階層です」


 まだあるんかい! 階段怖い!


「エレベーター、つけるかい?」


 もう二度と来ねーと誓うが、オレの人生、一度あることは何度もある。きっとまた来ることになると思う。そのときのためにエレベーターを設置していただけると幸いでございます。


「いえ、ゼルフィング家で働く者、このくらいで根をあげませんので問題ありません」


 ここに一人、根をあげてる者がいまーす!


 と言いそうなのグッと我慢する。オレにも雇い主としてのプライドがある。なんなのかは説明できねーが、メイドが嘆いてねーのに、オレが先陣切って嘆いていられねーよ。


「そうかい。まあ、執事さんなら心配ねーが、逃げ道のねー地下だ。万が一の避難訓練はしっかりしておけよ」


「畏まりました。しっかりしておきます」


 なんとか残りの階も制覇し、やっと地上に登って来れた。クソ。転移バッチ使えばよかったぜ。


 食堂に向かうと、夕食時だったようで、囲炉裏間には皆が揃っていた。


「なにか、疲れた感じだな」


「まーな。一生分の階段を登ってきたよ」


 毎回登ってくるうちのメイド、マジスゴすぎんだろう。


「階段? なんのことだ?」


 首を傾げる親父殿。


「……地下にいってねーのか?」


「地下? あーいったことはないな。いく用もないし」


 まあ、オレもボンネットバスに乗らなけりゃいくこともなかったくどな。


「一度、いや、定期的に見にいけ。そんでもって造りを頭に叩き込んでこい」


「はぁ? 意味がわからんのだが?」


「万が一のとき、地下を把握してなけりゃ困るだろう。だから定期的にいって、なにがどこにあって、どう避難したらイイか頭に入れておけ」


 うちのメイドなら万が一もねーだろうが、だからと言って一家の主が守られていたんじゃ示しがつかねー。前面に立って守る気概を持て、だ。


「……なにか、そんな事態が起こっているのか?」


 村人になったが、まだ冒険者としての勘は錆びてねーか。


「どうもこの世界は、とんでもねー生き物に狙われているようでな、備えておいたことに越したことはねー。家族が大事なら万が一に備えておけ」


「とんでもない生き物? 竜とかか?」


「竜がアリに思えるくらいの生き物だよ。オレの全力でも倒し切れなかった」


 飛竜なら五、六発で倒せるのに、X5は百発近く殴っても倒すことはでかなかった。打撲系攻撃じゃ何百発殴っても倒すことはできねーだろうよ。


「どこかにいってるのかと思えばそんな生き物と戦ってたのかよ。村人じゃなく勇者に転向したのか?」


「オレは死ぬそのときまで村人だよ。それに、倒したのは帝国の魔女だ。今のところ、あれに勝てるのはその魔女さんくらいだろうな」


 メルヘン機なら倒せるだろうが、群れで来られたらこの星はあっと言う間にジ・エンドだろうよ。


「悲観することもねーが、楽観するのもダメだ。敵はどこにでもいる。災害は忘れた頃にやって来る。備えよ。さすれば最悪は回避される、だ」


 こちらには最高戦力たるカイナがいる。よほどの数でなければ人類滅亡にはならんだろう。


 ……もっとも、滅亡一歩手前にはなりそうだけどな……。


「遥か昔、この世界は滅亡まで追いやられた。だが、誰かが箱庭を創って命を次に残した。それと似たようなものがうちの地下にある。なら、万が一のとき、家族を逃がすために知っておけ、ってことさ」


 箱庭──フュワール・レワロがいくつか残ってはいるが、古いもの過ぎて使用期間が終わっている感じっぽい。再利用するよりはエリナにガンバってもらったほうが強度的に安心だろうよ。


「わかった。シャニラの出産が終われば見にいくよ」


「ああ。オカンと子どもを優先してイイよ。ってか、まだ産まれそうにねーのか?」


 もう産まれもおかしくねーと思うんだが。


「シャニラ的にはそろそろとは言ってたな」


 四人目になるとそろそろとかわかるのか? オカンだからウソとも言えんから笑えんわ。


「まあ、産まれるまでは親父殿が側にいてやれ」


 出産に立ち会うのは親父殿の役目。オレが立ち会わなくても問題はねーさ。


 ……まあ、可能な限りオレも立ち会うけどね……。


「それより、夕食にしようぜ。腹減って倒れそうだわ」


 囲炉裏間に上がり、親父殿の音頭で夕食をいただいた。

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