第1416話 即応部

 村人として生まれ、大自然の中で生きてきた。


 だから体力は前世以上あると自負している。十キロなんて近所を散歩する感覚だ。なんなら二十キロは歩ける自信もある。


 だが、階段は強敵だった。もう心が挫けそうである。


「べー様、体力なさすぎですよ」


 肉体がない幽霊に体力とか言われたくないわ。


「よく、毎回登ってるな。苦じゃねーの?」


 ちょっと休ませてもらい、平気そうな青鬼メイドに尋ねた。


「わたしはべー様即応部なので体力は他のメイドよりありますので」


 なんだよ、オレ即応部って? オレは災害かなにかか? いや、災害みたいなことに巻き込まれてるけど!


「一般メイドはそこまでではないので、休憩しながら登ってます。次の休憩所でお休みになりますか?」


 次のってことはその前にもあったんかい! 早く言ってちょうだいな!


 文句も言うのも疲れるので、次の休憩所にいく体力を温存した。


 その次の休憩所とやらは階段沿いにあるのではなく、踊場から少し入ったところにあった。


 十畳ほどの広さがあり、自販機が三台とベンチが二つあった。


「なにか飲みますか?」


 ベンチに崩れ落ちるように座り、一息ついたら青鬼メイドに尋ねられた。


「ああ。水かお茶を頼むわ」


 さすがにコーヒーはキツい。喉の通りがイイ水かお茶にしてください。


「では、水を」


 すぐに買ってもらい、五百ミリリットルの水をいっきに飲み干してしまった。旨い! お代わりはしないけど。


「はぁー! もうちょっと体力つけねーとな」


 オレ、思っている以上に体力ねーな。メイドに負けるとか恥だわ。


「あとどのくらいで地上だ?」


「そうですね。あと五十メートルと言ったところですね」


 つーことは百五十メートルも登ったのか。東京タワーの半分くらいて参るとか、マジで情けねーな、オレの体力。


 十分くらい休んでから出発し、なんとか五十メートルを登り切った。ヒ~! 疲れた~!


「お疲れ様です。あとはエレベーターを使いますか?」


 ん? エレベーター? え? 到着じゃねーの?


「ここはゼルフィング団地です。地上から二百メートルくらい下ですかね?」


 うちの地下、マジでどうなってんの? 完全に地下世界──いや、ジオフロントってそんなもんだわな……。


「カイナのヤツ、改造すんの早いな」


 港の避暑地もそうだったが、元の世界の物を出せる能力でよくこんな建造物を出せるよな。一体どんな応用なんだ?


「カイナ様、やるときは本当に早いみたいですね。見てた者が驚いていました」


 そうだ。あいつは好きなことには全力投球だった。まったく、孫がいるってのに落ち着きがねー野郎だぜ。


「べー様も落ち着きないじゃないですか」


 そんな突っ込みノーサンキューです。


「団地は常に明るいのか?」


「いえ。夜の八時になれば暗くなります。あと一時間くらいですね」


 へー。暗くなるんだ。どんなカラクリになってんだ?


「地上にはあの中央エレベーターを使います」


 青鬼メイドの指差す方向に四基のエレベーターがあった。


 中央ってからには他にもあるようで、そう頻繁に使われている感じはなかった。いや、夜の七時だから人がいねーだけか?


 エレベーターに乗ると、開閉のボタンに階層のボタンは六つだけ。そう細かく階層分けしてるわけじゃねーんだ。


 6のボタンを押し、エレベーターが動き出した。


 上昇速度は遅く、6の階に着くのに十五分くらいかかった。


「なんでこんなに遅いんだ?」


「なんでも気圧が違うそうで、慣れるために遅くしてると言ってました」


 へー。気圧が違うんだ。地下なのにそんなことあるんだな。


「こちらです」


 と、エレベーターを出て、武装したメイドがいるゲートへと向かっていった。


「ここは?」


 武装したメイドがオレを見るなり小銃を後ろに回し、なんとも綺麗なお辞儀をして迎えてくれた。


「館へと通じるゲートです。ここは、ゼルフィング家に仕える者しか入れません」


「即応部メイド、サナです。べー様の案内のため通ります」


「お帰りなさいませ、べー様」


 なんだか物々しいな。こんな厳重にする必要あるんか? とは思ったけど、家のことは親父殿に任せた身。どうやるか口出す資格はオレにはねーさ。


「あい、ただいま」


 お帰りと言われたらただいまと返すのが礼儀。オレ、そこんとこはしっかりしてるんです。


 通路を進むと、エントランスみたいなところに出た──ら、そこにいたメイドたちにが一斉にこちらを向いてお辞儀した。ぎょ、仰々しいな、まったく……。


「お帰りなさいませ、べー様」


 びっくりしていたら執事さんとメイド長さんが現れた。もしかして、オレが帰って来るの聞いてたのか?


「ああ、ただいま。わざわざオレの出迎えなんてしなくてイイぞ」


「仕える者としてそうは参りません」


 まあ、仕事をする者としての誇りがあるんだろう。そうかい、とだけ答えておいた。


「案内ありがとな。もうイイよ」


 青鬼メイドを解放する。ありがとさんね。


「はい。失礼します」


 一礼して青鬼メイドが下がっていった。


「あのメイドにボーナス出しといてくれや。いくらかは任せる」


「畏まりました」


 特別待遇しなくてイイと言われるかと思ったが、そう言うことはないらしい。まあ、どうだかわからんけどな。


「食堂までよろしく。腹減ったわ」


 久しぶりに動いて腹が減った。ガツンとしたもの食いてーや。


「畏まりました。すぐ食べれるよう準備致します」


 今度は執事さんの案内で食堂へと向かった。

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