第1414話 ボンネットバス
ん? え? ボブラ村?
転移バッチを発動しようとして、ふとバス停に目がいったらボブラ村ターミナルと書いてあった。
転移を止め、バス停の時間表を見たら一時間に一回出ていた。
「どんな需要があんだよ?」
つーか、ボブラ村まで二、三十キロは離れてるぞ。道だってねーし、どこを通ってボブラ村にいってんだよ?
「ボンネットバス、来ましたよ」
都合よくボブラ村いきのボンネットバスがやって来ました~。
「べー様、乗りましょうよ」
「いや、ボンネットバスで帰ったら夜になるぞ」
今は午後の三時過ぎ。ボンネットバスの速度や道を考えたら二時間以上は余裕でかるぞ。
「まあ、いいじゃないですか。そう急ぐ用事もないんですから」
なにやら乗り気なレイコさん。別に反対する理由もないので、ボンネットバスへと乗り込んだ。
「ご乗車ありがとうございます。こちらはボブラ村いきバスでございます」
緑鬼の車掌さん。地獄いきじゃないよね?
「ボブラ村までいくらだい?」
「六十円になります」
やすっ! 赤字路線になってんじゃねーの?! いや、前に乗ったときは三十円だから高くなってんのか?
「べー様。あとがつかえているから早く入ったほうがいいですよ」
レイコさんに言われて振り返ったら、なんか人がいっぱいいた。なぜに!?
「ん? もしかして、うちのメイドか?」
つっかえている中に見たことがある青鬼のメイドがいた。
なんか「あわ! 見つかっちゃった!」みたいな顔をする青鬼のメイドさん。なんだ、その慌てようは?
「せっかくの休暇なのに、面倒な雇い主に会ったからじゃないですか?」
「よし。そこのメイド。ちょっとオレの隣に来いや。ミタさんの代わりに使ってやろう」
優しい優しい雇い主様が仕事を与えてやろうじゃないか。
「酷い雇い主ですね」
休日手当ては出すホワイトな雇い主です。
乗車しようとした乗客がサッと割れ、青鬼メイドのために道を作った。
「……そんな……」
泣きそうな青鬼メイドに目を向ける者はなし。オレ、そんなに酷い雇い主?!
「車掌さん。一人一律六十円かい?」
「はい。猫や幽霊は改正して無料となりました」
猫と幽霊を無料にするために値上げしたのか?
「はい。六十円です。定期もありますよ」
定期まであるんかい! ドル箱路線か!
まあ、六十円払って二人がけ用の席に座った。
「座ったら?」
青鬼メイドが席に座らず立ったままだった。
「いえ。メイドとして主と座るなど不敬ですので」
そんなものか? ミタさんは……どうしてたっけ? あれ? 記憶にねーや。
「ちゃんと控えて立ってましたよ」
そ、そうなんだ。幽霊はよく見てんな。
「まあ、無理しないていどにしな。別になにかを頼むこともねーしな」
だったら呼ぶなよって抗議は受け付けませんのであしからず。
乗客が乗り込み、ボンネットバスが発車した。
「結構乗ってるが、全員うちのメイドか?」
男も乗ってはいるが、九割は女だ。
「いえ、カイナーズホームやアバール商会で働いている方もいらっしゃいます」
「クレインの町から通ってんのか? 通勤、大変じゃね?」
「はい。地下団地がもういっぱいになって、クレインの町に新たな団地ができたんです」
団地って、どんだけ人が増えてんだ? そんな急激に人が増えたら仕事とか食料とか間に合わなくなるんじゃねーのか?
「狭いところで文句は出てねーのか?」
「ライフラインがしっかりしてて大人気です。ただ、家賃が月四千円と高額なので入居者は決まってきますが」
や、家賃四千円って高いのか? つーか、メイドの月収いくらだよ? いや、知らない雇い主でごめんなさい。
「あんたも団地住まいなのか?」
「いえ、わたしはゼルフィング家の地下に住んでます。クレイン団地には両親が住んでるんです」
ゼルフィング家の地下? 保存庫をとっぱらったのか?
「急激に発展してんな」
「はい。ですが、暮しが楽になって幸せです。魔大陸ではその日食べるのも大変でしたから」
弱肉強食で戦国時代みたいな魔大陸と比べたら申し訳ねーが、どこも似たり寄ったり。毎日食えるところなど極一部。同情する気にもなれん。だがまあ、幸せになれてなによりだ。
「そうか。まあ、明日も幸せになるようガンバることだ」
「はい。しっかり働かせていただきます」
ボンネットバスに乗車してるヤツらがこちらを向いて、青鬼メイドと同じく頭を下げた。
そんな姿に肩を竦め、外の景色に目を向けた。
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