第1413話 皆、覚えてる?
ハイ、クレインの町に帰って来ました~。
「船長、ありがとな」
「この船はべー様の船です。いつでも遠慮なく使用してください」
あまり使用してなくてごめんなさい。
ってか、オレの名前を冠したヴィベルファクフィニー号、どうしたっけ?
「ハルメランに置いてきたままですよ」
ハルメラン? ハルメラン? ハルメ……あ、自由貿易都市群か。すっかり記憶から落ちてたわ。皆は覚えてる? 黒丹病が蔓延して滅びそうになった街のこと?
あ、ピータとビーダ、ドラゴンズを放置したままだった!
「なんかいろいろと散らかしてんな、オレ」
「それで問題にならないのだから不思議ですよ。まるでべー様が動くのを待っているかのようです」
そんな予測いらんわ。
まあ、動かなければイイだけのことだが、そうならないのが今生のオレ。平々凡々に、悠々自適に、前世より豊かに暮らしたいだけなのによ……。
「悠々自適に、豊かな暮らしはしてるんじゃないですか」
平々凡々が波乱万丈になってるのが大問題なんだがな。
「せっかくだからクレインの町でも見ていくか」
オカンの出産も今日明日って感じでもねー。それに、産気づいたら連絡が来んだろうよ。
「発展したな」
まだできて半年くらいなのに、家屋が百以上建ち並んでいる。発展するときはとんでもなく早いものだ。
「ボンネットバス、クレインの町まで来てんだな」
ヤオヨロズ国の発展は完全にエリナに任せているので、オレは関知していない。まあ、ゼルフィング商会としては深く関わっているだろうがな。
「店もできてんだ」
食堂や服屋、雑貨屋、露店なんかもある。種族に関係なく商才があるヤツはいるんだな。
「ただ、円ってのはどうかと思うが……」
確かに新しく創るよりあったものを持ってきたほうが早いだろうが、オーパーツ的な日本の硬貨を持ってくるってどうなんだ? いや、なにもしないオレが言うのもなんだから口には出さんがよ。
「よく見たら、結構ボンネットバスが走ってんな」
一台だけかと思ったら五台も走ってたよ。そんなに必要なのか?
「おや、べーじゃないか」
キョロキョロしてたら派手な服を着た……あ、カブキねーちゃんか。服が代わってたから誰だかわからんかったわ。
「おう、久しぶり。元気にやってるかい?」
数ヶ月振りの再会だけど、相変わらず技術者って格好じゃねーよな、このねーちゃんは。
「ああ。食事も環境も設備も充実してるからね、毎日元気でいないと楽しめないよ」
「それはなにより。宇宙にいける船を造るまで元気でいてくれや」
「セーサランか。話は聞いてるが、本当に空の彼方から来た生き物なの?」
「少なくとも人魚は空の彼方から来た種族だな。あと、岩さんも」
あ、岩さんのことも放置したままだっけ。
「空の彼方か。わたしには想像もつかないよ」
「これはオレの勘だが、飛空船は星を渡る船からきていると思う。おそらく、なんらかの種族が空の彼方から来たんじゃねーかな?」
公爵殿の飛空船なんてまさに宇宙から来たようなデザインだ。つーか、飛空船そもそもがオーバーテクノロジーだ。一から進化してったなら途中で産業革命くらいあったはずだ。
「そうだね。遥か昔、光の民が星の海からやって来たってお伽噺なら先生に聞いたことあるよ」
それならオレも本で読んだことがある。人外から聞いたなら真実味が出てくる話だな。
「どこかに光の船が埋まってるのかもな」
人魚の宇宙船があったのだから光の船があっても不思議じゃねー。と言ってもオレには興味ねーから探しはしないがな。
「そうなら掘り出して研究したいところだね」
「まあ、飛空船造り、ガンバれや」
カブキねーちゃんと別れ、クレインの町を見たら館へと帰ることにする。
「あ、べー様!」
ボンネットバスのターミナル的なところに来たら、リテンちゃんがボンネットバスから降りて来た。
ノーム族でダルマっちゃんな娘だ。皆、覚えてる?
「おう、久しぶり。カイナーズホームに買い物か?」
「はい。服を買いにいきました!」
服? ああ、なんかコロコロ具合が増した感じだな。
つーか、女もダルマっちゃんみたいな体になるんだろうか? ノーム族の女、未だに見たことねーからなんか怖いぜ。
……体型が悪いとかじゃなく、想像がつかんから怖いんですよ……。
「イイのあったかい?」
ドワーフやクルフ族の服があるんだからノーム族の服もあるんだろうが、好みは千差万別。気に入ったデザインがあるものなのかね?
「はい。たくさんありすぎて悩んじゃいました!」
へー。カイナーズホームの品揃えは本当に豊富なんだな。
「ふふ。リテンちゃんはお洒落さんだな」
「えへへ。いつか自分でも作ってみたいです!」
「知り合いに服を作るヤツがいるから紹介してやってもイイぞ。なんか人手不足みたいだったからな」
そう言ったら目を輝かすリテンちゃん。
「あ、でも、わたし、針を持ったことないです」
「練習したらイイさ。リテンちゃんの歳で針を持つヤツはいくらでもいるからな」
リテンちゃん、確か六歳だっけか? トアラもそのくらいから針を持ってたような気がする。
「まあ、親が許すなら紹介してやるよ。やることになったらうちのメイドに声かけてオレんところに来たらイイさ」
コーリン、よろしこ! って言うだけの簡単なご紹介だからな。
「はい! そのときはお願いします!」
「あいよ」
元気なリテンちゃんの頭を撫で撫でし、ボンネットバスのターミナル的なところで別れた。
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