第1412話 常駐
なるべく東西南北に位置するよう井戸を掘った。
「……つ、疲れた……」
「まあ、いきなりにしてはよくガンバったほうだな」
魔法は魔力より精神力を消費する。下手したら命にかかわるくらい消費するから注意な。オレとの約束だぜ。
「今まさに命にかかわるくらい消費してると思うんですけど」
「成長するには一歩手前まで持っていくほうが伸びるもんさ」
井戸を掘ったくらいで大した伸びはねーと思うが、限界をしておくのはこれからの伸びを考えたら知っておいたほうがイイさ。
「ツンツインテールは休んでな」
いつまでも時間はかけてらんねー。一日の予定が数日もバリアルにいるんだからよ。
「ヘキサゴン結界」
土魔法を発動させながら認識できるヘキサゴン結界を展開。ドーム状にする。
セーサランと死闘をしたせいか、二つの力を同時に使うのも慣れたもの。十分もしないで温室を創り上げた。
「これが神聖魔法ですか」
「らしいな。他を知らんからなんとも言えんが」
フュワール・レワロも神聖魔法で創られたものだが、能力によってどんな構築されてるかまったくわからねー。辛うじて似てるな~ってくらいしかわからんのだ。
「真面目先生がマイアを支えてくれるならここの使い方を教えておくよ」
四つ創った扉の横にヘキサゴン結界の制御盤たる箱を創り、気温が上下できるボタンと遮光調整ボタン、湿度調整ボタン、点灯ボタンの使い方を教えた。
「高度な組み立てをするのね」
「フュワール・レワロと比べたら児戯に等しいよ」
あれは高度すぎてさっぱり意味がわからんわ。
「小さな温室もお願いしてよろしいでしょうか? 個人的に育てたいものがありますので」
「ああ、構わんよ」
植物の専門家が育てるものに興味があるので、テニスコート一面分の温室を四つ、創った。
「そうだ。水槽もいくつか創っておくか。真面目先生は、水を操れる魔法とか使えるかい?」
植物に得意なら水を操れることも習得してるんじゃね?
「ええ。使えます」
と、空中から水を集めてスイカくらいの水球を創り出した。
「……よくわからないが、世界最高峰ってのはわかるよ……」
まるで滑らかで当たり前のように自然。おそらく真面目先生は水魔法の天才だ。
「わたしなどまだまだです」
謙遜ではなく、さらに上がいるから出た言葉だろう。
「世の中にはさらに上がいるんだな」
まあ、人外がいる世界。真面目先生以上のがいても不思議じゃねーだろうよ。
「そうですね。わたしも常々思っております」
「小温室の使い方は同じだ。マイアと相談して好きなのを植えてくれ」
これにてオレの役目、終~了~で~す。
キャンピングトレーラーに入り、ハブルームに向かうと、叡智の魔女さんとそばかすさん、そして、魔女服とはちょっと違う服を着て、つばの短い三角帽子をかぶっていた。
「ここに何人か常駐させてもらいたい。もちろん、そちらが認めた者は通すので」
「そりゃ構わんが、またなんで?」
「こんなのが知れたら騒がしくなるに決まっておろう。こちらはそちらほど鉄壁ではないのだ」
「なるほど。帝国は大変だな」
ゼルフィング家には怖いメイド長や執事さんがいる。裏切りは死、とかやっちゃいそうだからな。
「なら、過ごせるように改造してやるよ」
すり鉢状のところに屋根つきの部屋を創り、風呂やトイレ、台所、仮眠室、ちょっとしたレクリエーションルームを創ってやった。
「必要なものはそちらで揃えてくれや。なにかあればうちのメイドに言いな。うちからも定期的に寄越すからよ」
その辺はメイド長さんにお任せです。
「あまり快適空間にしないでくれ。お前さんのところにいきたいと言う者が多くて困っておる」
「オレは快適に暮らしたい派なんでな。戒めはそちらでやってくれ」
常駐する魔女さんらに部屋の使い方を教え、必要なものがあれば追加してやった。
「よいか、お前たち。役目を忘れるなよ」
常駐する魔女さんらがニヤケてるのを見て、釘を刺す叡智の魔女さん。若い女を御するのは大変だ。
「んじゃ、オレは戻るな」
うちに繋げドアではなく、プロキオンで帰ることにする。乗せて来てもらって放置は船長に申し訳ねーからな。
支店長さんに挨拶し、なぜか婦人やアリーもプロキオンに乗せて帰ると言うので一緒に乗船した。
「べー様。出発します」
「あいよ」
来たとき同様、客室でコーヒーを飲みながら我が家へと帰った。
「ハァ~。なんかいろいろ大変だったぜ」
「いつものことでしょう」
まったくもってその通りすぎてため息しか出ねーぜ。
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