第1411話 目から鱗
キャンピングトレーラーから出ると、ツンツインテールが健気に井戸を掘っていた。意外と健気?
「おーい! 水は出たか~!」
穴を覗いて声をかけた。
「まだよ!」
「あ、深くなると空気が少なくなるから注意しろよ~」
って言ってたらスゴい勢いで登って来た。火事場のバカ力か?
「そう言うことは最初に──!?」
オレの後ろに視線を動かしたら固まるツンツインテール。あ、真面目先生がいたっけ。
「ミズニー様、失礼しました!」
「魔女は本当に縦社会なんだな」
まあ、村社会も付き合いだなんだで大変だけどな。
「規律がありますから」
真面目先生に真面目な回答。下は大変そうだ。
「そうだな。規律は大事だな。大図書館をがんじがらめにして身動きできない規律じゃなければ、だが」
規律を否定する気はねー。オレだって自分の決めたルールで生きて、ルールを守って死ぬなら本望って口だからな。まあ、どうでもイイことには臨機応変に動くけどな。
「そういじめてくれるな」
と、どこかからか叡知の魔女さんが現れた。この魔女も神出鬼没やな……。
「いじめてなんかねーよ。人を纏めるには規律は必要だし、問題児どもをよく従わせてると感心するくらいさ。魔女でありながら教育者として立派だと思うぜ」
たぶん、真面目先生は魔女としてより教育者としてのほうが優れているんだと思う。
「一辺倒な教師を揃えるよりいろんな個性を持つ教師を揃えたほうが下は伸びるもんさ」
生徒は先生をよく見てるもの。いろんな先生に触れて視野を広げるほうがイイさ。
「なにより、自分を律する姿を見せることは見習いどものためになると思うぜ」
まあ、大勢に受け入れられねーが、委員長さんみたいなタイプからは受け入れているはずだし、尊敬もされていることだろうよ。
……そういや、最近委員長さんを見てねーな? どこに消えたんだ……?
「お主は絶対に教育者にしてはダメな類いだな」
なぜかオレではなく真面目先生を見る叡知の魔女さん。なんなの、いったい?
「べー様のそう言うところがダメだと思います」
そして、なぜか幽霊からも否定される。オレ、なんか悪いこと言った? ねぇ、言った?
「……わ、わたしは別に……」
真面目先生がそっぽを向く。
なんかよくわかんねーが、これは追及しちゃダメな空気だ。安全のために流しておこう。うん。
「ツンツインテール。井戸の掘り方を教えてやる」
首根っこをつかみ、井戸へと飛び下りた。
「な、なんでミズニー先生を連れて来るのよ!」
上に聞こえないよう怒るツンツインテール。オレが無理矢理連れて来たんじゃないのに……。
「文句があるなら館長様に言えよ」
「言えるわけないじゃない! 懲罰部屋いきよ!」
大図書館にはそんな部屋があるんだ。おっかね~。
「なら、いかないようガンバれ。二人が見てるんだから」
「ううぅ、なんでわたしが……」
「人生なんてそんなもんだよ」
なんでわたしが、なんでオレがなんてよくあること。不幸は誰にでも降って来ることだ。なんで、なんて考えるだけ無駄なんだよ。
「それより、井戸を掘るときは空気を循環させろ。人の息は空気より重いし、地中に溜まったガス──毒が吹き出すこともあるんだからな」
「そう言うのは早く言ってよ」
「うん。すっかり忘れてた」
メンゴって謝ったら殴られました。サリバリみたいなヤツだよ。
一通り殴られれてやり、井戸掘りを再開させる。
「水が近いな。周りをより強く硬化させろ」
「ふ、噴き出すの?」
「いや、滲み出る感じだな」
漫画みたいに噴水のように出ることはねー。出ても湧き水みたいな感じだろうよ。
少しずつ掘っていくと、水が滲み出てきた。
「こんなものでいいの?」
「ああ。地下水は流れているから一定以上は溜まることはねー。そのために数を掘るんだよ」
温室の規模から言って四つから六つも井戸があれば間に合うはずだ。
「ツンツインテールは結界魔術は使えるか?」
「使えないわよ。わたしたちは魔女なんだから」
まあ、魔法と魔術は形態が違うからな。使えなくてもしょうがねーか。
「じゃあ、結界はオレがやるよ」
水を濾過する結界とカビがつかない結界、そして、ゴミが入らない結界を施した。
「濾過装置を上につけたらイイんだが、面倒だからここ設置する」
「……神聖魔法ってメチャクチャね……」
「そうだな。メチャクチャだと思うよ」
使ってるオレですらそう思うのだから、周りから見たらオレ以上にメチャクチャに見えるだろうよ。
「よし。上がるぞ」
ここはこれで完了。あとは上での作業だ。
「ってか、このツルツルな壁をどうやって登っていったんだ?」
オレは結界で降りて来たが、ツンツインテールはどんな方法を使ったんだよ。
「こうよ」
と、壁に手つけて登っていった。スパイダーガールか!
「土魔法にそんな使い方があったとはな」
目から鱗の出来事だわ。
オレも教えるのではなく、見習いたちから学ぶことを心がけるとしよう。
そう考えを変え、オレも壁に手を当て、土魔法で地上へと登っていった。
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