第1410話 極めると個性は出るもの
シュンパネでやって来たのはイングリッシュガーデン? 的な庭園だった。
「ここは?」
「大図書館の中庭だ」
「ふーん。初代の趣味かい?」
背を向けていた叡知の魔女さんが振り返った。なに?
「なぜ、そう思った?」
「庭園を見てだが?」
なんなんだよ、いったい?
「ここは、初代様の安らぎの場所だった」
ガーデニングが趣味だったのか?
前を向いた叡知の魔女さんが歩き出し、なんか墓碑みたいなところにやって来た。
「これを」
と、十字架型の墓碑を指差した。
そこにはI LOVE YOU と書かれ、こちらの言葉でロバートと書かれていた。
「誰の墓?」
「墓、なのか?」
なにやら叡知の魔女さんと越えられない齟齬がありそうな感じがある。
「これは、初代様が設置したものだ。我々もこれがなんなのかわからない」
「墓だろう? ロバートってヤツの?」
こちらの墓碑は平たい石を地面に置くのが多い。オトンの墓もそれにしたよ。まあ、剣は十字架代わりだったがな。
まあ、地方によって埋めて石を乗っけただけのもあるが、十字架型の墓碑なんて初めて見た。ってまあ、初代様やらは転生者っぽいし、十字架型の墓碑でも不思議じゃねーか。
「そうか」
「誰の墓かは知らんが、ロバートとやらは初代さんに愛されていたようだな」
「そうか」
「まあ、魔女も人の子ってことだ。気に入らなきゃ壊せばイイだけだ」
「…………」
返事はなし。そのまま墓碑の前から立ち去ってしまった。
「この指輪はどんな意味があるんです?」
レイコさんが前に出て来て、十字架に埋められた二つの指輪を指差した。
「死が二人を分かとうとも、かな?」
おそらく、死んでも自分らは夫婦って言いたいんだろうよ。
「……生まれ変わって出会えているとイイな……」
オレも生まれ変わって出会えた。まあ、かかわることはなかったが、新たな人生を送っているんだから不満はねーけどな。
墓碑に手を合わせてから叡知の魔女さんのあとを追った。
イングリッシュガーデン的な庭園を抜けると、城のような建物が現れた。
……ホグなワーツのキャッスルっぽいな……。
「ここが大図書館だ」
へー。ここが大図書館なんだ。大英図書館っぽいのを想像してたぜ。いや、どんなものか知らんけど。
大図書館に入ると、当然の如く魔女さんたちがいた。
「ってか、オレが入ってイイものなのか?」
男子禁制的なところじゃねーの?
「本来は許されぬことだが、主要人物を招くことはある。お主は特例だ」
「それは光栄なことで」
珍獣でも見るような目を向けられるんじゃなければ、だけどな。
奥へと進み、なにもない部屋へと通された。なにここ?
「使ってない部屋だ。ここから繋いで欲しい」
「あいよ」
オレに否はねーのでハブルームに繋げる。あらよっと。
ドアを潜ると、そばかすさんがいた。待たされていたのか?
「ライラ。ミズニーとフィーラを呼んで来てくれ」
「は、はい!」
駆け足で大図書館と繋いだドアを潜っていった。下っぱは大変だ。
「少し待っててくれ」
と言うので、すり鉢状のところにテーブルと椅子を出し、コーヒーでも飲みながら待つことにした。
「先ほどのことは忘れてくれ」
「あいよ」
魔女には魔女の事情があるんだろう。オレが立ち入る気はねーさ。それに、初代さんの色恋に興味ねーしな。
コーヒーを飲んでいると、大図書館のドアから四十歳くらいの魔女が二人、そばかすさんに連れられて入って来た。
一人は真面目が服を着ているような魔女で、もう一人はちゃんと食べてる? て訊きたいくらい痩せこけていた。
「ミズニーは植物に長けた者で、フィーラは解剖学に長けた者だ」
「ミズニーと申します」
と、真面目が服を着たような魔女さん。
「フィーラです」
と、ちゃんと食べてる? と訊きたいくらい痩せこけた魔女さん。
「大図書館って、個性豊かじゃないと入れない仕組みか?」
「極めると個性が強くなるだけだ」
まあ、真理だと思うわ。
「聞いてはいると思うが、オレはベー。見習い魔女たちを預かる者だ」
「館長より聞いております。見習いたちがお世話になっております」
本当に真面目な魔女さんだこと。
「サダコは?」
「ここに」
と、背後から返事。いたんかい! 気がつかんかったわ!
「シュンパネで大図書館にいって、ドアを潜って戻って来るまで背後にいましたよ」
「もっと存在感だせや!」
「ベー様にかかれば幽霊でもいないことにしちゃいますけどね」
「よし、サダコ。秘密の部屋の案内は君に任せた。じゃあ、外にいこうか」
レッツらゴーとキャンピングトレーラーへと繋がるドアを潜った。
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